F1世界選手権(Formula 1)

夕刻のマジックアワーにアブダビの空が刻一刻と表情を変え、ドラマチックな風景に一年分の思い出が流れていく。そんな感傷などお構いなしにサーキットにはエンジンサウンドが響き渡り、赤のライトが今年最後の仕事を終えて眠りに就く。すると夕陽のオレンジと夜空の藍色、相反する2色のカラーリングに染められたマシンが序盤から緊張感を限界まで引き上げる。

F1世界選手権(Formula 1)

F1ブラジルGP
Photo by Pascal Richier on Unsplash

ファイナルラップ、トロ・ロッソのピエール・ガスリーは実質的に最終コーナーになるターン13にイン側を牽制しながら進入、対するメルセデスのルイス・ハミルトンは思い切りアウト側に寄せてからコーナー出口でガスリーのインに突くクロスのラインを狙う。必死に抵抗するガスリーが許した僅かマシン1台分のスペースに、躊躇なく銀色のマシンがノーズを押し込む。

鋭角な左へのコーナリングを終えれば残るはターン14、15と続く緩い左コーナーのみ。ガスリーの左リアタイヤとハミルトンの右フロントタイヤが並ぶ。ハミルトンが狙い通りの戦術でオーバーテイクを仕掛ける。

もしもガスリーがレッドブルのマシンに乗っていたら、不安定なリアの挙動に加速のタイミングが遅れ簡単にオーバーテイクを許していたかもしれない。だけどトロ・ロッソSTR14はガスリーの思いに全身全霊で応え、ハミルトンを抑えようと無理をした走行ラインからでも勢い良くスピードを上げる。

セーフティーカー明けでお互いにDRSは使えず、あとは2人と2台の力比べ。ガスリーは気持ちでも負けずインから並びかけようとするハミルトンをコース最内に封じ込める。左側はコース外、右側にはガスリー。走行ラインがマシン1台分しかないうえにアレックス・アルボンとの接触でフロントウィングに受けたダメージがステアリングにも影響しているのなら、いくらハミルトンでも多少のプレッシャーは感じるはずだ。

ホンダとメルセデスのパワーユニットが持てる力の全てを放出しチェッカーフラッグを目指す。マシン半分だけ先を行くガスリーにハミルトンのマシンが横に並べず、格下のマシンがチャンピオンのマシンを従えて走る。運と実力、チームの力と運命の気まぐれを全部足し算した合計値が、今この瞬間だけ王者を上回る。手を伸ばせば触れられそうなほど近い距離にいながら300km近い猛スピードでの並走が続き、ほぼ同時にフィニッシュラインを駆け抜ける。

大きな期待を背負って移籍したレッドブルでは慣れないマシンと慣れないチーム、なにより常に視界に入るマックス・フェルスタッペンの強烈な存在感にこれまでのスタイルを破壊されて死んだ魚の目になっていた。F1の政治を迎合するのもチャンピオンに必須の条件であるのかもしれない。だけどトロ・ロッソに戻ってからのガスリーを見ていると、そんな面倒ごとなんて無いほうが、純粋に全力で走る姿のほうが美しく見える。今のままでどこまで行けるんだろう。F1って頂点の栄光だけが全てじゃない。ボロボロになっても自分を失わず戦い続けるヒーローも必要だ。その先にこそ報われる未来があって欲しい。そうじゃなければF1はきっと、ただのマネーゲームになってしまうから。

そんな思いにふけっていると、目の前でガスリーが0.062秒差で逃げ切った。

思わず飛び上がって膝を机に打ち付ける。痛い。でもそれどころじゃない歓喜が湧く。表彰台の上にはガスリーがマックス・フェルスタッペンと並び、野太い声のガスリーコールが聞こえる。今季求められていた結果をようやく果たしてくれたガスリー。チームもマシンも想像と違うし何故か青き衣を纏っていたりするのに、とても自然な感じがする。

明日はきっと左膝もトロ・ロッソブルーだ。

F1世界選手権(Formula 1)

F1アメリカGP
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アメリカGPの舞台となる「サーキット・オブ・ジ・アメリカズ」のレイアウトは結構お気に入り。ホームストレートの先にそびえ立つターン1を駆け上がり、左に鋭く切り返して一転下り坂、その先には右へ左と連続するコーナリング区間。ターン11を過ぎると市街地サーキットのように直線をつないだデザインに表情を変える八方美人。いろんなコースのいいとこ取りしたコースは幅も広くて楽しそう。

F1世界選手権(Formula 1)

結果を目にしたなら、予選はフェラーリの速さとシャルル・ルクレールの才能、決勝はメルセデスの強さとルイス・ハミルトンの安定感ってイメージだと思う。だけど、なんですかこの違和感は。

F1世界選手権(Formula 1)

台風一過の真っ青な空。1年前に見た、モニターの向こうの景色を今でもまだ覚えてる。熱狂、落胆、パワーユニットの咆哮と、この手で直に触れたサーキットの感触。また同じ場所で、新しい歴史が作られる。今年は家の中でまったり観戦。でも全身で体験した思い出は一生消えたりしない。

F1世界選手権(Formula 1)

F1ロシアGP
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想像を上回るマシンの進化で復活への期待が高まるフェラーリ。予選での快進撃は止まらず、シャルル・ルクレールはこれで4戦連続ポールポジション。メルセデスへの反撃の意気込みと「俺たち」への不安が交差する日曜日。

F1世界選手権(Formula 1)

シャルル・ルクレールの存在が、弱いフェラーリの姿を猛々しい姿へと変えていく。だけど、ドライバーとチーム、それぞれの思惑はどこかちぐはぐで、とても脆く見える。そんな薄氷の上の勝利を手に入れたのは、チャンピオン争いの最適ルートからコースオフしてなかなか帰ってこれなかった人。

表彰台の真ん中に、おかえりなさい。

F1世界選手権(Formula 1)

シャルル・ルクレール。その名前からして優美。まだあどけなさの残る表情と爽やかスマイル、羨望のモナコ出身、ドライバーとしての類まれなる才能、他者の運命すら背負って戦う姿、ときおり醸し出すダークなオーラ。そして2019年シリーズに与えられたのは伝統の真紅のマシン。映画や小説でも敵わないくらいのパーフェクト王子様ステータス。

だけど彼は一日にして王になってしまわれました。

F1世界選手権(Formula 1)

F1ベルギーGP
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悲劇が起きた場所を、色とりどりのマシンが何度も何度も通り過ぎていった。始めは重い空気に飲まれるように、次第に思いを振り切るように。レースの残酷さと美しさが共存する不思議な光景に、僕は吸い込まれていった。

F1世界選手権(Formula 1)

F1ハンガリーGP
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いったい何が悪いんだ?という心の声が聞こえてきそうな嘆きの走り。見えないはずのヘルメットの下の、苦虫を噛み潰したような表情がたやすく想像できてしまう。いやほんと、どうなってるの?これって。