【映画感想】ペンギン・ハイウェイ/お姉さんは世界だ

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(C)2018 森見登美彦・KADOKAWA/「ペンギン・ハイウェイ」製作委員会

お姉さんは不思議だ

2人兄弟の長男なのに「お姉ちゃんっ子だったでしょ」とよく言われる機会が多いのは、間違いなく年上の従姉妹の影響だ。母方の実家を訪れると、幼い頃は身体が弱くて激しい運動のできなかった僕は1つ歳上で元気な従兄弟と一緒に遊ぶより彼のお姉さんに相手をしてもらう方が多かった。出会ったときは小さな動物のぬいぐるみが住んでいるミニチュアの家を見せてもらうのがお気に入りだった。小さな家の中には暖炉があって暖かそうな室内には落ち着いた色調に統一された家具が並んでいた。僕は動物たちとお姉ちゃんと一緒に暮らしているような気分になっていた。

いつも近くにいてくれて、たくさん話をしていたと思う。なのに肝心の彼女のことを僕は今ではほとんど思い出せない。2、3歳くらい歳上だったろうか、もっと離れていただろうか。色白でほっそりとした佇まい、肩口あたりに揃った髪。姿は覚えているのに、今では名前を思い出せない。不思議なことに、母が仕事に出かける日に僕が体調を崩して1人にはしておけず実家に預けられた時も何故かお姉ちゃんがいたのを覚えてる。もしかしたら彼女自身も身体が弱かったのかもしれない。小学生の頃になると家庭の問題で実家から遠ざかってしまったので全く会わないようになり、大人になるまでは小さい頃の記憶など忘れていたくらいだった。なのにお姉ちゃんっ子属性を赤の他人にあっさり見破られてしまうとは、お姉さんの存在感とはとても大きなものだ。

世界は不思議だ

『ペンギン・ハイウェイ』は、小学生の少年アオヤマ君が突如街で起こったペンギン目撃情報を友人のウチダ君と一緒に調べていくうちに、次々と不可思議な出来事を目の当たりにするも持ち前の知恵と勇気と仲間たちとの友情で真実に立ち向かっていく物語だ。

自称賢いアオヤマ君は持ち前の理路整然とした思考能力を武器に様々な事象を解明しようと奮闘する。どんな現象を前にしても「ありえない」といった拒絶の言葉に逃げたりはせず、よく観察して再現性を確かめ事実を正しく認識しようとする、好奇心と探究心の強さには思わずこちらも気持ちを改めさせられる。それでいて他人の気持ちには鈍感な部分があったり、いじめっ子に対して強気な態度を取ってみたり、単なる優秀な少年ではなく人間らしい「ゆらぎ」の部分も持ち合わせている。

そんな彼には、とっても気になる人がいる。優しくって頭も良くて、チェスを教えてくれたり、いつだって彼のことを気にかけてくれる、近所にすむ「お姉さん」。アオヤマ君にとっては、その表情も胸のかたちも理想的な姿をしている。このお姉さん(蒼井優)の声だけが他のアニメらしい声優陣の中でザラリとした特別な感触を持っていて周囲とは異質の理を持つ存在感を鑑賞している人たちにも提示する。彼女もまたペンギン騒動と何らかの関係がありそうだ。そう思うとアオヤマ君のモチベーションも上がる。

しかし、子供たちだけの秘密の研究も、次第に大人たちの手が伸びて来てしまう。アオヤマ君もペンギン騒動に加え更に広がる謎を前にして、今の自分の知識だけでは真実を解明するには力不足だと気付くに至る。

よって、お姉さんは世界だ

いつしかアオヤマ君たちの研究対象は街を巻き込んだ大騒動へと規模を拡大していく。なす術もなく手をこまねくばかりの大人たち。しかしアオヤマ君だけは、お姉さんの存在が謎を解く鍵になると確信する。それは彼だけがお姉さんと世界を優劣なく横に並べ、それぞれの事象を先入観を持たずに関連付けられるからだ。研究仲間の同級生たちや大騒ぎの原因となってしまったことに責任を感じていたいじめっ子たちの力を借りて、真実に向かってひた走るアオヤマ君。その先にあるのは、今まで見てきた世界の向こう側に広がっている新しい世界だ。でもそれは彼に大きな選択を迫る大人の階段でもある。

森見登美彦さん特有の地に足が付いているようで付いていない独特の文章が、現実に寄り過ぎるでもなくブッ飛び過ぎるでもなく奇想天外なアニメーションで見事に表現されていて、観る前はそこだけが心配だったのだけれど全然違和感がなく楽しめた。石田祐康監督の今後も楽しみ。

おわりに

「姉ちゃんがいないのに良い思いしやがって」

僕が幼い頃の思い出を話すと、それを聞いた友人は(彼も僕と同じ2人兄弟だ)羨ましそうな顔を向けた。僕らのように男兄弟しかいないと、確かに姉や妹の存在は手の届かない憧れに映る。ほんの僅かな時間だったとはいえ姉のような存在がいたことは幸運だったのかもしれない。

だけど名前もハッキリと思い出せないままでは少し不安にもなる。もしかしたら僕だけにしか見えない架空の存在だったのだろうか。それとも彼女は僕の記憶のほとんどを消して遠い時空に旅立ってしまったのだろうか。年上の綺麗な女性と話すたびドキドキしてしまうのは、単純に魅力的だからだけでなく、この人も不思議な力を持っているんじゃないかと考えてしまうからなのかもしれない。

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