【F1 2019】第20戦ブラジルGP/いつか夢は叶う

2019年11月23日

F1ブラジルGP
Photo by Pascal Richier on Unsplash

ファイナルラップ、トロ・ロッソのピエール・ガスリーは実質的に最終コーナーになるターン13にイン側を牽制しながら進入、対するメルセデスのルイス・ハミルトンは思い切りアウト側に寄せてからコーナー出口でガスリーのインに突くクロスのラインを狙う。必死に抵抗するガスリーが許した僅かマシン1台分のスペースに、躊躇なく銀色のマシンがノーズを押し込む。

鋭角な左へのコーナリングを終えれば残るはターン14、15と続く緩い左コーナーのみ。ガスリーの左リアタイヤとハミルトンの右フロントタイヤが並ぶ。ハミルトンが狙い通りの戦術でオーバーテイクを仕掛ける。

もしもガスリーがレッドブルのマシンに乗っていたら、不安定なリアの挙動に加速のタイミングが遅れ簡単にオーバーテイクを許していたかもしれない。だけどトロ・ロッソSTR14はガスリーの思いに全身全霊で応え、ハミルトンを抑えようと無理をした走行ラインからでも勢い良くスピードを上げる。

セーフティーカー明けでお互いにDRSは使えず、あとは2人と2台の力比べ。ガスリーは気持ちでも負けずインから並びかけようとするハミルトンをコース最内に封じ込める。左側はコース外、右側にはガスリー。走行ラインがマシン1台分しかないうえにアレックス・アルボンとの接触でフロントウィングに受けたダメージがステアリングにも影響しているのなら、いくらハミルトンでも多少のプレッシャーは感じるはずだ。

ホンダとメルセデスのパワーユニットが持てる力の全てを放出しチェッカーフラッグを目指す。マシン半分だけ先を行くガスリーにハミルトンのマシンが横に並べず、格下のマシンがチャンピオンのマシンを従えて走る。運と実力、チームの力と運命の気まぐれを全部足し算した合計値が、今この瞬間だけ王者を上回る。手を伸ばせば触れられそうなほど近い距離にいながら300km近い猛スピードでの並走が続き、ほぼ同時にフィニッシュラインを駆け抜ける。

大きな期待を背負って移籍したレッドブルでは慣れないマシンと慣れないチーム、なにより常に視界に入るマックス・フェルスタッペンの強烈な存在感にこれまでのスタイルを破壊されて死んだ魚の目になっていた。F1の政治を迎合するのもチャンピオンに必須の条件であるのかもしれない。だけどトロ・ロッソに戻ってからのガスリーを見ていると、そんな面倒ごとなんて無いほうが、純粋に全力で走る姿のほうが美しく見える。今のままでどこまで行けるんだろう。F1って頂点の栄光だけが全てじゃない。ボロボロになっても自分を失わず戦い続けるヒーローも必要だ。その先にこそ報われる未来があって欲しい。そうじゃなければF1はきっと、ただのマネーゲームになってしまうから。

そんな思いにふけっていると、目の前でガスリーが0.062秒差で逃げ切った。

思わず飛び上がって膝を机に打ち付ける。痛い。でもそれどころじゃない歓喜が湧く。表彰台の上にはガスリーがマックス・フェルスタッペンと並び、野太い声のガスリーコールが聞こえる。今季求められていた結果をようやく果たしてくれたガスリー。チームもマシンも想像と違うし何故か青き衣を纏っていたりするのに、とても自然な感じがする。

明日はきっと左膝もトロ・ロッソブルーだ。

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