【WRC 2019】世界ラリー選手権 第13戦ラリー・スペイン/新しい時代の始まり

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2004年からセバスチャン・ローブが9連覇、その後はセバスチャン・オジエの6連覇。フランス人、そして同じ名前のドライバーが君臨し続けた時代が目の前で終焉を迎えた。いつかこの日が来るのはわかっていたけど、まさか次の王者がトヨタのドライバーとはね。

オイット・タナック。ミッコ・ヒルボネンというベテランが抜けて若手育成に力を入れるMスポーツに所属していた頃の彼は、経験が少ないせいか速さはあるけどマシンを壊してばかりのイメージ。正反対に落ち着いた印象のチームメイト、エルフィン・エバンスをはじめ大人しいドライバーが多かった若手の中でもひときわ暴れん坊で、走りだけでなく言動でも目立った存在だった。フォルクスワーゲン全盛の時代に「彼ら以外にも速いドライバーがいるんだ!」なんて吠えていたのはタナックくらいしかいなかった。

覚醒の兆しが見えたのは2016年、新興タイヤメーカーが創設したDMACKのチームに移籍してマシン開発にも大きく関わるようになった頃から。チームにデータを持ち帰る責任を背負って走るようになったことで、自分の限界を超えるような無茶が減っていった。このシーズンはパンクという不運もあって初勝利を逃してしまったけれど、誰の目にも勝てる能力を持っているのは明らかだった。

そして2017年にMスポーツへ復帰すると、ついに才能を開花させ初優勝。この年のエースドライバーだったオジエに負けないほどの速さとしたたかさを身に着けた彼は、1度勝ってしまうとあっという間に2勝目を挙げて一気にトップドライバーへ。2018年には不動のエース不在のトヨタに移籍して、王者オジエのライバルとして名乗りを上げる。キュウリみたいにクールなヤツなんて呼ばれているティエリー・ヌービルが実は感情の起伏が激しい性格だったりするのに対して、タナックの熱さはムラが少なくて完成度が高い。オジエかヌービルがいれば勝てると思ってるヒュンダイはかなり焦ったんじゃないかな。そして2019年。タナックが速いときにできることは多くないとライバルたちに言わしめるほど成長した彼に、その瞬間はやってきた。

絶対に勝つ、絶対に踏みとどまる。そんな機に挑むときの彼の走りには凄みがある。序盤のうちにリードを広げクルージングでタイムコントロールしつつ逃げ切るかつての王政時代の勝利の方程式とは違い、前に誰かがいようがいまいが攻め続ける。最終日のパワーステージ。今季最も重要な一瞬に、彼の強さが活きないはずがなかった。

残るマシンは最終走者タナックの1台のみ。20.72km、約11分のタイムアタックで全てが決まる。直線のほとんどない峠道を平均速度100kmを超えるスピードで駆け上がり、攻め下る。ここでチャンピオンを決めるには、ヌービルよりも速いタイムを出す必要がある。

上り坂ではコースの先が読みにくい。コ・ドライバーの声だけを信じて、まだ見えない先の先にあるコーナーに車体の向きを合わせながら目の前のコーナーをクリアしていく。曲がった先で右よりに付くか左よりなのか、それだけでも0コンマ何秒の差が生まれてしまう。下り坂ではブレーキングがキツい。外に膨らみそうなマシンを、急なヘアピンのイン側に鼻先をこすりつけるようにしながら旋回し再加速。速さ以外の全てを削ぎ落としたような走りで駆け抜けた最終スプリットの計測タイムは、ヌービルでさえ0.2秒届かなかったエバンスのタイムを3.6秒上回っていた。

最終ステージを圧倒的な速さで制したタナックは総合2位に浮上、18+ボーナス5ポイントを加算し、シーズン合計で263ポイント。ヌービルは優勝で25+ボーナス3ポイントを加えてシーズン合計227ポイント。ヌービルは最終戦で最大30ポイント獲得できてもタナックには届かず、これでチャンピオンが決定。まだ最終戦もあるからと余裕を見せていたはずなのに、やっぱり最後の最後に本気を出してしまうところは彼らしい。

これで15年続いたセバスチャン時代が終わり、新しい時代がやってくるのかな。その前にヌービルがオジエ超えを果たせるのか、最終戦にも注目したい。

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