【WRC 2019】世界ラリー選手権 第11戦ラリー・トルコ/ヒーローの定義

ココアパウダーがけのクラッシュアーモンド。ラリー・トルコの映像を見ていると、どうしても美味しそうに見えてしまう。そんなスイーツなイメージとは裏腹に走る環境としては最悪のデスレース。必ず誰かが犠牲になってしまうサバイバルでもあるのです。

シーズンも残り4戦となった終盤戦。2018年からカレンダーに復活したばかりのラリー・トルコはコースに豊富な経験を持つドライバーもいないし、グリップの弱い荒れた路面はどんなアクシデントを引き起こすのかわからない不確定要素の多いレースの1つ。

裸足で歩いたらめっちゃ痛そうなゴツゴツとした小石だらけのコース上を走るからパンクする確率も高く、速いタイムを出す以上にマシンに受けるダメージを極力抑えて完走する方が大事だったりする。

昨シーズンはワンツーフィニッシュを飾って信頼性については実績を作ったトヨタは、次は速さの方に磨きをかけようとサスペンションの改良に力を入れた。いかにもトヨタらしい判断。そしてこういうときにはすぐに結果につながらないところもトヨタらしい。

タイヤのトラブルに激しい雨。トヨタのチームが万全を期すときは、いつもそれ以外の想定外に行く手を阻まれてしまう。エースのオィット・タナックが電気系のトラブルでリタイアしてしまえば、ヤリ-マティ・ラトバラとクリス・ミークは確実なポイント獲得のために戦略を変えるしかない。去年と同じように大事な場面での運の悪さというか、肝心なところで弱い。

なんて意気消沈していたのに、全く諦めていない人の背中を見て自分が恥ずかしくなった。

最終日、残りステージは4つ。 ペナルティを受けて復活したタナックがポイント圏内まで順位を上げるのは絶望的。最後の望みはパワーステージ(最終ステージで5番手以内のタイムを出すとボーナスポイントがもらえます)のみ。1番手の5ポイントを奪いに行く戦略を隠しもせず挑もうとするドライバーの姿がそこにあった。

タナックはタイヤを4本だけ選択。つまりスペアタイヤは持たないということ。パンクしたときの備えとして通常は1、2本を積んで走るタイヤを降ろせば重量は軽くなってタイムも少し良くはなる。けど引き換えに一度でもパンクすればレースは続行不可になる。もうチャンピオンになるためだけに走ってる。

ミスの許されない最後のタイムアタックが始まっても、相変わらずのムスッとしたような表情と丁寧なドライブは変わらない。ヘリからの空撮もオンボード映像も、あんまり速さは感じない。長いストレートが少なくてエンジンが甲高い雄叫びを上げる瞬間も少ないから迫力も伝わってこない。そのぶんスピードの出せない区間ではきっちりとインに付き、必要以上の旋回はせず、ドリフトするマシンがコーナリング中にブレたりすることもない。なんでそっち向いてるの?と思うくらい横を向いても、スライドしつつ加速していけば目の前にきっちり直線が現れて、改めてコ・ドライバーが読み上げるペースノートの正確さと、それを信じきって見えない先のコースに驚く。

車重を軽くしたことによる加速とコーナリング性能の良さを活かして小数点以下の小さなタイムをギリギリまで削っていく。想像以上に限界を攻めているのが伝わってくる。だけど怖さはない。これくらいのリスクを背負う覚悟を、タナックは1年前に決めているのだ。

終わってみれば総合優勝のセバスチャン・オジエやライバルのティエリー・ヌービルを上回るトップタイムで5ポイント奪取。最後まで諦めない姿をタナックが結果でも見せてくれた。

この人みたいになりたいと思ったら、きっと目の前にいる人はヒーローだ。最後まで諦めずに戦う彼の姿を見ていると、モータースポーツにも意義があるって理解できる。

目指し、尽くし、辿り着くこと。その素晴らしさを教えてくれるものなのだから。

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