【WRC 2019】世界ラリー選手権 第9戦ラリー・フィンランド/ラトバラさんはこの先生きのこれるのか

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ラトバラさん、頑張って!その言葉を口にすれば、いつものように何かが起こってしまいそうで怖かった。だから手を合わせて最後の1秒まで無言で祈った。本当に、最後の1秒までどうなるかわからない人だから。

妖精の国フィンランド。学園都市ユヴァスキュラの周辺は美しい森と湖に囲まれ、WRCでもかつては1000湖ラリーなんてドラマチックな名称で呼ばれた、尊さしか感じられないイメージ。だけどラリーとなれば野生本能剥き出しのドライバーたちがスピードの向こう側まで攻めちゃう危ないイベント。

トヨタ陣営にとっては大事なホームグラウンドでもあるし、チームのWRC復帰以降連勝を続けている縁起の良い場所。得意なコースに新しいスペックのエンジンまで投入して、レース前から勝つ気しかありません!といった自信が漂っている。

優勝候補は現在チャンピオンシップ首位のオィット・タナク選手。昨年ここで優勝した以上に今年は強く、逞しくなって帰ってきた。ミーク選手はハマれば優勝しちゃいそうな怖さはあるけれど多分どこかでミスをする。で、一番気になっているのはずっと応援しているヤリ-マティ・ラトバラ選手だったりする。シーズン前半を過ぎても今季まだ1度も表彰台に立ててない大不調。若手が次々と成長してWRCのシート争いに加わる中で、これ以上成績が出せないとまた居場所を失ってしまうことになりかねない。ラトバラさんのことを意識し始めたのは2010年、ペター・ソルベルグ選手のチームメイトだった頃なのでもう10年も前になる。速いけど、いつも大事なところで何かが起きて、それでもいつも前向きだった。ずっと同じ気持ちで今になるまで応援し続けることになるとは思っていなかった。一昨年からは落ち着いたと思ったんだけど。

そんなささやかな応援が届いたのか、序盤から3台のトヨタ・ヤリスが編隊を組んでトップ3を独占する。特にタナク選手は先頭走者だから路面の掃除役もこなしていて不利なはずなのに、誰よりも速いという異常事態。なんだかフォルクスワーゲン時代のセバスチャン・オジエ選手のような絶対王者感が漂ってる。一時はチームメイトにラトバラ選手に順位を奪われるもミスのない走りでトップの差を取り戻す。ミーク選手は予想通りリタイアし、代わりに元トヨタのエサペッカ・ラッピ選手が2番手まで伸びてくる。地元のチーム、地元のドライバーが強い中、フィンランド人のラトバラ選手も3番手。後続との差はまぁまぁあって、なんとか表彰台には上がれそうな雰囲気。

いよいよ最終ステージ。ラトバラ選手とコ・ドライバーのミーカ・アンティラ選手を乗せたマシンが森林の中の細い砂利道を右に左へと駆け抜ける。道脇に止めたトラックの荷台からファンが声援を送っている。比較的スムーズな路面は上下に波打っていて、軽く浮き上がってはサスペンションが柔らかく衝撃を吸収しながら着地する。ジャンクションでお尻を振りながら急旋回し、そこから一気に6速180kmまでスピードを上げる。優勝争いじゃないからコースの中心をなぞるように、気持ちよさそうにスイスイと走る。ステージ最終盤にある大回りの左コーナーをダイナミックなドリフトでクリア、最後のフィニッシュラインにあるジャンプスポットで高く飛び上がって、若干つんのめって着地。これで昨年の最終戦以来の表彰台を獲得。緊張していたのか走行後の真顔がちょっと怖かったけど、インタビューでようやくリラックスした表情が見られて嬉しさで泣きそうになる。

ラッピ選手の走行を挟んで、最後はタナク選手とマルティン・ヤルヴェオヤ選手の走行のみ。落ち着いた蹴り出しからすぅっと流れるように森の中に吸い込まれていく。見た目は全然速くなくて、むしろ遅そうなくらいゆったりとした雰囲気。地面からのジャリジャリとした音すら聞こえない。だけど良く見ると限界までブレーキを我慢してたり、コース幅いっぱいを使って(というかはみ出てる)攻めている。後続との差は約16秒で無理せずとも勝てるだけの余裕はあるのに、実は全開フルアタックに入ってたらしい。緩いS字は強引に直進し、コーナーでは半分を過ぎたあたりから前に向かってトラクションを掛け続ける。最後の方は力みすぎて大回りになっちゃったけど、フィニッシュ後のタイムを見るとまさかのトップタイム。ボーナスポイント最大の5ポイントを手に入れて後半戦最高の滑り出しで格の違いを見せつけられた。

トヨタのデビューイヤーではエースドライバーだったラトバラ選手がチームをここまで引っ張ってくれたのは間違いないのだけれど、後から加入したタナク選手があまりにも強くてまたもやセカンドドライバーみたいな感じになってしまった。来季以降もタナク選手が残留だとWRC2(WRCの下位カテゴリ)で活躍するカッレ・ロバンペラ選手がトヨタと契約するのでは?なんて噂もあがっているし、次戦ラリー・ドイチェランドでWRCデビュー予定の勝田貴元選手もそのうち加入するかもしれない。このままだとまたシートを失ってしまうのかなと不安になる。トヨタを追い出されたらMスポーツしかないと思うんだけどMスポーツで勝てる強さがあれば既に2、3回はチャンピオン獲れているだろうし、やっぱり今季の後半戦で良い結果を出すしかないのかな。

なんて思いつつも、毎戦頑張っている姿を見られるだけでも嬉しかったするのだけれど。

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