【WRC 2019】世界ラリー選手権 第8戦ラリー・イタリア・サルディニア/タナボタとか言わないで

Photo by Florian Bernhardt on Unsplash

地中海の輝く海。真っ青な空にモコモコと立ち上る砂煙。昨年はティエリー・ヌービルが0.7秒差の大逆転劇を演じ、その激しい戦いの余韻は未だ心に残っている。今シーズン後半に大きな影響を与えるサマーインターバル前の勝負どころ。また何かが起こる。そんな予感が強くなっていく。

最終ステージを迎え、首位オィット・タナックに付けられた差は26.7秒、後方のテーム・スニネンとの差は22.3秒。6.89kmのラスト1本で順位が入れ替えるには人智を超えた力が必要になる。ならば人にできることはミスなく完走することだけだ。ダニ・ソルドはいつも通りマイペースでタイムアタックに入る。スプリット1はスニネンから5.5秒遅れ。ボーナスポイント獲得は狙わず20秒以上ある貯金を活かしてリスクを背負わず2位以上のポジションを確定させる作戦だ。彼らしい。

柔らかい路面には深い轍が生まれステアリングの自由を奪う。前走のマシンが掻き分けた砂はコース脇に溜まり、うっかり足を踏み込めば蟻地獄のように捉えて離さない。全開アタックでなくとも危険だらけのルートを、飄々とした様子でソルドのマシンが通り過ぎていく。

いつだって彼の周りには天才が近くにいた。初めてのワークス・チーム、シトロエンではセバスチャン・ローブが圧倒的な存在感で常にナンバーワンのポジションに立っていた。そのうちジュニアチームに在籍していたセバスチャン・オジエが頭角を現しチームを追われた。その後は不安定な待遇を綱渡りで耐え抜いた。

ローブの引退後に一旦はシトロエンに戻るも、ヒュンダイへの移籍を決めた。そこにはティエリー・ヌービルという若者がいた。ローブの後継者として王者に君臨するオジエに対し唯一戦いを挑めるドライバーだった。今季はローブまで同じチームにやってきた。昔とは違って熟考に熟考を重ねる渋い走りに変わっていたが天才はやっぱり天才のままだった。凡人では一生叶わないのではないか。そんな気持ちを抱いているのかいないのか、それでもソルドは走り続けた。

ステージが後半に差し掛かる。登りの区間が終わって今度は一気に逆落とし。海岸線のある方へと下っていく。スプリット2でのスニネンとの差が7.8秒差。どのくらいのペースで走れば良いか理解した上で走っている。突っ込み過ぎず、膨らみ過ぎず、ラリーのお手本のような走りはブレることがない。

右へ左へと切り返しの続く区間を抜け、右手に青い海を見据える。あとは前方に待ち構えるフィニッシュラインへとほぼ直線区間を駆けるのみ。淡々と走り続けた結果が報われる時。セバスチャン・ローブにマシンを譲ったラウンドも含めて8戦目、ようやく今季初の表彰台を手に入れた。

しかし直後にビッグニュースが飛び込んでくる。最終走者タナックのマシンにステアリングの問題が発生しコースアウト、走行を再開するも2分以上のタイムをロスして目前の勝利を逃してしまった。これでソルドに優勝が転がり込んできた。最後まで丁寧に走り抜いたご褒美は、通算2勝目の大きなプレゼントだった。

きっとソルドも天才の1人なんだと思う。他の天才たちが巻き起こす暴風の中でも自分の道を信じてゴールにたどり着ける特別な力を持っているのだから。だからタナックが偶然にもトラブルを起こしタナボタで勝利を手に入れたなんて思ってほしくない。

だってラリーの勝敗は、人と自然と神様の、全ての意志の総和で決まるのだから。

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