【F1 2019】第7戦カナダGP/精神的ウォールオブチャンピオンズ

2019年6月20日

いつになくピエール・ガスリーの姿が長回しで映し出される。ピンク色のマシンをDRSゾーンで一気に追い詰める。華々しい攻防戦の予感にムフフと笑いながらモニターを注視する。しかし、いつまで経っても攻略シーンを見ることは叶わなかった。

まるで今シーズン初戦のデジャブのようだ。ストップ・アンド・ゴーが繰り返されるジル・ビルヌーブ・サーキットでガスリーが苦しんでいる。オーバーテイクが難しいコースであるという事実を考慮しても痛々しい。相手はレーシングポイントだから決して楽な相手じゃない。それでもラップタイムから考えると力の差は歴然なのに、抜けない。

前を走るルノーのダニエル・リカルドは躊躇なくオーバーテイクを決めストロールの前に出る。その動きは間違いなく超一流。今季もレッドブルに在籍していたらと一瞬想像してしまうほどキレのある走り。ガスリーの方はというと牽制程度の仕掛けはできるが本気の追い抜きは来ないとストロールにすら見透かされているかのようで、応援しているこっちが歯がゆい気持ちになる。

抜けないのなら無理をするなとでもチームから指示があったのか、そのうちに追撃の手は止まりポジションキープへと作戦は変わったようだった。ストロールがピットインして前方がクリアになるまでの長い時間をガスリーはどんな気持ちでドライブしていたのかはレース後の表情に良く表れていた。結果はベスト・オブ・ザ・ベストの一員としては許されない8位入賞。ゴシップ記事がこぞって叩くのは目に見えていた。

ストレートエンドでのフルブレーキングに不安があってインに飛び込めないのかと思って映像をよく見ると、その前に距離を詰めきれていない。いくらカナダグランプリのコースと相性が悪かったとはいえ、さすがにトップ3の一角に座するチームのマシン性能とは思えない。どうやらストレートの立ち上がりに問題がありそうだ。ということで目を凝らす。

例えばシケインからの立ち上がり。リアが暴れないようにとおっかなびっくりな様子でマシンが完全に向きを変えるまでスロットルを全開にできず、その分加速が鈍っているように見える。

その後に同じマシンで走るフェルスタッペンを見ると、一見同じ危うさがありそうでいて、でも安定している。とても繊細なアクセルワークが伝わってくる。スロットルオンとオフの間がとても細かくて、加速を始めるとスゥッと伸びていく。0%から100%の間を1%刻みで操る動き。本当はもっと細かくて0.1%単位だったりするのかもしれない。比べるとガスリーの方は10%刻みとか、それくらい。

ガスリーの方にもう一度目を向けると、やっぱり踏み込みが足りてない。30%未満の踏み込みでクリアできるコーナーを、ガスリーは20%、フェルスタッペンは29%までスロットルをオンにしているみたいな違いを感じる(素人目線なので本当のところはわかりません)。

トロ・ロッソ時代に見せたコーナーでの果敢な飛び込みとオーバーテイクは、一気にスロットルをオンにしてもガスリーが抑え込めるレベルの性能だから可能だったのだろう。レッドブルのマシンが暴れだしてしまうのはガスリーの操縦技術では抑え込めないほどに性能が高いからなのだろうか。今までは単純にマシンとの相性が合っていないのだとばかり思っていたけれど、今回のレースを見ているとガスリーとチームメイトたちとのドライバーとしての大きな差が見えた気がした。

きっとガスリーの目の前には最終シケインに待ち受けるウォールオブチャンピオンズよりも分厚くて高い壁がそびえ立っていて、乗り越えられずにもがいている。天才たちが物理法則を無視してすり抜けていくだろう壁を、そうでない者は努力で乗り越えていくしかない。

マシンを自分のスタイルに合わせていくのは大事なこと。でもフェルスタッペンらトップレベルのドライバーたちを見ているとスーパーリニアアクセルワークのスキルは全員持っていそうなので、せっかく手に入れた機会だしチームメイトのドライビングスタイルに近づけていくのも悪くはないのかもしれない。参考にするには人間離れし過ぎたドライバーだけど。

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