【WRC 2019】世界ラリー選手権 第7戦ラリー・ポルトガル/スッキリした空とスッキリしないモータースポーツルール

ヨーロッパ大陸の最西端、ポートワインに種子島。これくらいの知識しかなくたってラリー・ポルトガルは特別だ。空からの視点では緩やかに広がる丘陵地帯に点々と大きな風車が並んでいるのが見え、大地に寄っていくとエンジンの咆哮が響き渡り大勢の観戦者が集まって半裸で声援を送っている。穏やかでワイルドな不思議な場所。

それを象徴するように、のどかな景色の中にそびえる大ジャンプスポットがドライバーたちを待ち受ける。

青い空の下、そのジャンプスポットを着地点側から見上げると、なんだこれは!と叫びたくなる(現地には行ったことがないのであくまでもカメラを通して見ている)。高く盛り上がった丘の上から、まるで斜め上45度に打ち出された大砲の弾の如く、たかだか1.6Lのエンジンを積んだ自動車が空を飛ぶ。長く伸びたサスペンションが逞しい四肢に見える。それらが着地の瞬間にグッとこらえて衝撃を吸収して再び弾み上がってしまうこともなくマシンはコース上を何事もなかったかのように走り始めるのだから、車体を支える技術の凄さを感じる。

最終日、最終ステージはこの名所を含む11.18km。トップ3はオィット・タナック、ティエリー・ヌービル、クリス・ミークの3組で、コースが短いだけに大逆転は難しく、ほぼ確定していたはずだった。ところがミークがコースインから間もなく木の切り株に当たってリタイヤ、3位には選手権リーダーのセバスチャン・オジエが繰り上がりチャンピオンシップ争いに大きな影響を与えることになる。

2番手につけるヌービルはミスなく走行し、少し間隔を取っていよいよ最終走者のタナックの番が訪れる。チームメイトでもあるミークの援護射撃を失ってタナックは頭の中にある戦略を立て直す。眼の前にある勝利とパワーステージのボーナスポイント、そしてシーズンを通しての栄冠。取りうる選択肢の中から最適解を選び出す。

スタートするとマシンは早速林の中に飛び込んでいく。狭いコースのすぐ脇は並ぶ木々と高いバンクで見通しが悪く、乾いた路面は滑りやすくてコーナリングでスロットルのタイミングを一瞬でも謝ると車体が横へ横へと流される。それを知りつつも通常なら20〜30kmに減速するだろう車道の上を、ときには100kmを超えるスピードで走破していく。

視界が開け高速区間に出ると、丘の上へと向かう上り坂に入る。緩やかなアップダウンの続く丘陵地帯の先には1つ目のジャンプ台が待ち受けている。手前の左コーナーを旋回しつつスピードと走行ラインを調節し、空に向かって飛び出す。地面から一瞬開放され、ドン、と強い衝撃が車内を揺らす。そこから今度はダラダラと丘を下るゾーンが続く。止まり難く、コーナーで油断すればあっという間にコースオフしかねない狭いコースを駈け下る。

周囲には何基もの風車が、小人たちを踏みつけんとする大きな巨人に似た姿でそびえ立つ。その足元を次々とすり抜けながら右へ左へとマシンが向きを変える。ルートはもう一度丘の上へと向かい、多くのカメラ、観客が待ち受ける最後の大ジャンプに挑む。頂上への道は焦らすようになだらかで、常に先は見えない。大きく回り込む左から軽い右へとつながる曲線を抜けると、眼の前にゲートが突然現れる。

見えない着地点へと若干マシンを左に向けてテイクオフ。クルマで空を跳んだ気分。一瞬の浮遊状態を味わって着地、すぐに迫る右コーナーへとアウト・イン・アウトの定石通りスムーズに進入する。その先にはフィニッシュが待っている。最終コーナーの立ち上がりでタナックのマシンのエンジン回転数が上がらず目を疑う。でも意図的なスローダウンだ。タナックが選択した戦略は、すぐ目の前にある数ポイントを犠牲にして次のレースを有利に運ぶ戦略だ。

結果はタナックが優勝、オジエは3位。これで2人のポイントが並び、最終ステージで最速タイムのオジエに与えられるボーナスポイントは5、敢えて速度を緩めたタナックは3番手でボーナスポイントは3。次戦ラリー・イタリア・サルディニアで先頭走者のハンデを背負うのはオジエになった。

チャンピオンを獲るために全力を出さないという皮肉、これが今のWRCの姿でもある。ストラテジーが絡んで面白いとも言えなくもないが誰かが望んだ姿でもない。F1みたいな強者絶対有利なルールも困るが、WRCが抱える選手権リーダーが絶対不利な状況も少しずつで良いから改善して欲しいと思う。6連覇の王者でさえ戦う気持ちを失うほどの重荷なのだから。

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