【F1 2019】第6戦モナコGP/翼が夢に触れた瞬間

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Photo by Pascal Richier on Unsplash

インディ500、ル・マン24時間レースと並ぶ世界三大レースの1つ、F1モナコGP。異国という言葉がよく似合う上品な賑わいと華やかな街並み。その中に設けられたモンテカルロ市街地サーキットはウォールに囲まれた灰色の闘技場。カラフルさとモノクロームが共存した不思議な世界は、記憶の中の景色と変わっていなかった。

久しぶりに見たグランプリの空はグレーのグラデーションで、本格的な雨の気配は感じられない。去年の後半からDAZNでF1観戦するようになってから、ずっと楽しみにしていたモナコ。ターン1の先の上り坂も、カジノルーレットみたいなヘアピンも、海沿いのトンネルも、コースは良く覚えてる。最後にリアルタイムで見たレースは誰が勝ったのだろう。シューマッハだったか、それともベッテルだっただろうか。

相変わらず狭い狭いコース幅のレイアウトを78周。決勝では5分もあれば4周くらいできてしまう全長3.34kmの小さなサーキットはオーバーテイクの機会も少なく、レース後のデータだけを見れば非常に面白くない結果になっていると思う。だけど実際に目にすればジェットコースターに乗っている気分になれる。モナコでの勝利は3勝分の勝ちがあると言われている。だからドライバーたちは通常の3倍くらい本気で走る。

オンボードカメラの映像はただでさえ視野が狭いのに、延々とウォールに囲まれた見通しの悪いコーナーが続く。どれだけステアリングを切り続けても出口が見えず、ようやく抜けたと思ったらすぐに次のコーナーだ。なのにドライバーたちは遠慮なしに攻め続ける。ウォールにタイヤを擦った方が速いんじゃね?くらいの勢いでそれを実行する。見てるこっちはタンスのカドに足の小指が擦ったときのヒヤリとした恐怖を思い出してるのに、とても正気とは思えない。

レースは思っていたより順調に周回を重ねていく。シャルル・ルクレールの悲劇を横目に、予選から速いメルセデスの2台が予想通りに前を行く。想定外だったのは2番手のバルテリ・ボッタスの前にマックス・フェルスタッペンが出たことだ。これで首位のルイス・ハミルトンの後ろにフェルスタッペンが続き2台の長い長い戦いが始まる。実際はペナルティ付きで見た目とは異なる順位ではあるけれど相手の前に出たいという気持ちはお互いに変わらない。

タイヤに問題を抱え、無線では泣き言ばかりのハミルトン。フェルスタッペンは黙々と彼の後ろを走る。やみくもに飛び込むのではなく確実に狙えるタイミングだけを探している。きっと彼の頭の中では数え切れないくらいのシミュレーションが実行されて、その中で一番高い確率のオーバーテイクを模索している。明確な答えは簡単には見つからない。ここはモナコなのだから。

それでも徐々に攻撃の形がクリアになっていく。スロットルオンの位置を変え、あらゆる走行ラインを試しながらフェルスタッペンの走りが収束していく。仕留める場所はトンネル直後のシケイン。そこに至るまでのプランを数周に渡り確かめての終盤76周目、ついに実行のときを迎える。

短いホームストレートから2台のマシンが直列に並び、ターン1のサン・デボーテを鋭く右へ、そこからボー・リバージュの左右に緩くうねる上り坂を最短経路で駆け上がる。右手に広がる地中海の景色が、遠く、遠くへと伸びていく。後半に向けて半径が小さくなるマスネコーナーを左へ、今度は名物のカジノコーナーへを右へと切り替えして下り坂を一気に降りていく。ここまで引き離されないように耐えたフェルスタッペンが坂の下で待ち構えるミラボー・オートを右に回り込んで急加速すると、フェアモント・ヘアピンでハミルトンのテールに被せるようにアウト側から大回り。年々長くなっていくフォーミュラ1の車体を内側にねじ込むながら切り返し、ヘアピンからの立ち上がりに勝負を懸ける。ミラボー・バス、ポルティエと続く2つの右コーナーを速度を殺さずクリアし、ハミルトン以上の加速力でトンネルに飛び込む。

ノーズ・トゥー・テイル。2つのパワーユニットから生じる爆音が1つに重なり、閉じた空間に共鳴する。勢いはフェルスタッペンに分がある。マシンを左に振って並びかける。でもメルセデスのパワーがそれを許さない。近くて遠い。でも諦めない。もしもハミルトンが引けばなんて思ってもいないだろう。多分、確かめたいのだ。勝利に触れられる場所にいるのか、まだ届かないのかを。

暗いトンネルから眩しい光の中に飛び出し、シケイン手前を下りながらのフルブレーキング。ハミルトンの左リアとフェルスタッペンの右フロントタイヤが軽く触れる。両者バランスを崩しながらもダメージを追うことはなく今までと同じ位置に戻る。この日最大の見せ場が終わり、何事もなかったように見た目だけは静かなレースが再び始まる。

結局、最後まで隙を見せないハミルトンが78周の戦いを制して優勝。ボロボロのタイヤでもニキ・ラウダへの思いを背負ったメルセデスとハミルトンは強かった。2番手フィニッシュのフェルスタッペンは5秒ペナルティで4位。公式の順位よりもずっと高く跳んで、ホンダのパワーユニットを積んだレッドブルの翼が夢に触れた日になった。まだまだ足りない、というのがきっとフェルスタッペンの本音だろうけど。

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