【WRC 2019】世界ラリー選手権 第6戦ラリー・チリ/消えない光

2019年5月30日

ティエリー・ヌービルは大クラッシュ。クリス・ミークも横転してフロントウィンドウを失い、それでも空力無視の好タイムを叩き出す、波乱のラリー・チリ。こうなってくると一貫性を持つドライバーの凄みが、いつ以上に鮮明に輝いて見える。

速いだけのドライバーならいるけれど、最後までミス無く速く走れる一貫性を持っているドライバーは3人しかいない。セバスチャン・オジエ、オィット・タナック、そしてヌービル。その中の1人、ヌービルですら少しでも楽観的過ぎるアプローチを取ればあっさりと宙を舞う。代わりに浮上して来たのはセバスチャン・ローブだった。そうだった、ラリーの勝ち方を知っているドライバーがもうひと組残っていたんだった。ローブとダニエル・エレナ。9年連続でWRCの頂点に立った伝説のコンビ。

最初のステージを8番手で終えたローブは金曜日の行程を終えた時点でも6番手。タナックを先頭にペースを上げるトップ勢からはすでに50秒近くも離されて最初はとても大人しく見えた。

序盤は全盛期に見た手加減なしの速さと機械のような正確さとはちょっと違って、感覚を確かめるような慎重な走り。挙動の読めない路面に対して余力を残したサスペンションがマシンをフワフワと左右に踊らせる。初開催の慣れない地、グラベル(未舗装路)でのテストは今シーズンに入ってたったの1日しかこなしていない。それにヒュンダイi20 WRCで初めてのグラベル戦。それでもステージを重ねるごとに走りは磨かれていく。走りを支えるコースナビゲーションも完璧に機能している。

ラリーはある意味で先読みの勝負。例えば目の前に先の見えない急な右へのコーナーが1つあったら、ドライバーたちの頭の中にはその先の先の景色が見えている。そのコーナーは出口に向かって角度が緩やかになりコース幅も広がっていく。だから早めに加速して100メートル余りの短い直線でタイムを稼げる。その先には緩い左コーナーがあり、内側の岩に気をつけながら全開で曲がる。軽い上り坂があって頂点に到達したとき、一瞬だけマシンが宙を舞う。着地の先はすぐに右コーナーだから姿勢に注意して左に寄せる。それくらい先の未来をコ・ドライバーが読み上げるペースノート(コースの形や走り方を記述したメモ)の情報からイメージしながらマシンをコントロールする。ローブさまはともかくエレナさんはもうバリバリ現役のドライバーではないはずなのに正確な情報処理能力が全く衰えていなくて驚く。いつローブが走りたくなっても隣にいてあげられるように鍛錬は続けているんだろうな。でっぷりとしたお腹回りだけが少し心配。

上位陣が次々とクラッシュやトラブルで消えていき、その都度ローブの順位が繰り上がる。12ステージ目でついに表彰台圏内の3位へ。彼の本領はその後だった。タイム差がどんどん縮まっていく。どんどん成長してる。それも若手ドライバーたちを上回る勢いで。結局総合優勝はタナックとマルティン・ヤルヴェオヤ組、トラブルがなければ一番速い2人。2位はオジエとジュリアン・イングラシア組、現役最強の2人。そしてローブとエレナは2位まで約7秒さまで迫っての3位フィニッシュ。ただいま成長中の2人。もしフル参戦していたらと想像するだけで恐ろしい。

ローブ本人もかつてのように自信を持って走れているわけではない。自分のレーシングチームがあって、若手ドライバーに教える側にまわったりとセカンドキャリアを歩き始めてもいる。それでも自分がレースに出たのなら最後の1秒まで最大限の努力を続ける姿勢は、モータースポーツからもらえる大切なメッセージなんだと思う。

それにしても表彰台、向かって右には2012年まで9年連続チャンピオンのセバスチャン・ローブ、左には現在6連覇中のセバスチャン・オジエ。そうなると、2人の間に立つタナックの未来にどうしても期待してしまう。そしてそのマシンがトヨタであれば、尚のこと嬉しいのだけれど。

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