【F1 2019】第5戦スペインGP/退屈な夜もいつかの思い出に

Photo by Pascal Richier on Unsplash

グッドスタートを決めたルイス・ハミルトンが、あっという間にポールスタートのバルテリ・ボッタスの右に並ぶ。2台の外側には赤いマシンが現れて、セバスチャン・ベッテルが今度はボッタスの左側に付ける。

スリーワイド。開始からわずか10秒足らずで訪れた最高潮の瞬間。

「エルフ」と呼ばれる直角のターン1を最内からスムーズなライン取りで抜けて行き、続くターン2の「ルノー」で早くも首位に躍り出たのはハミルトン。スタートからのストレートで2台のマシンに挟まれたボッタスは接触を逃れるために減速を余儀なくされて数秒のタイムロス、ハミルトンから引き離される。ベッテルはタイヤをロックさせてターン1でコースを外れていき、復帰したところではチームメイトのシャルル・ルクレールにまで迷惑を掛けてと相変わらずオープニングラップは人間凶器。ベッテルが落ち着きを取り戻す前にマックス・フェルスタッペンがオーバーテイクして3番手に浮上。ここまででスタートから約25秒。振り返ってみれば、長いレースはこの時点で勝敗がついていたのかも。

首位争いはハミルトンとボッタス。他のチームとは比べ物にならないくらい強くて、前戦アゼルバイジャンGPとは順位を入れ替えた2台が完全にレースを支配してしまう。セーフティカーが入ってマシンの間隔が詰まった後は最後のひと勝負を望んではいたけれど、ボッタスのプレッシャーではハミルトンは動じない。そのままフィニッシュ。機微を追えばホンダエンジンの活躍とかやんちゃなハース2台の戯れとかあっても、あまりにも圧倒的なメルセデスの強さに心を奪われたままだった。

速いマシンを2台用意し、速いドライバーに乗ってもらう。レース中にマシンを壊さず、適切なタイミングでタイヤを交換し、誰にも抜かれず最後まで走り抜く。勝利したチームを簡単に説明すれば、たったこれだけのこと。つまらないと思えるほどシンプルな言葉の羅列。でもそれは、現在の地球上でたった1つのF1チームにしか成し得ない奇跡だった。しかも5回立て続けなんだから。なんだろう、もう事件だ。

人の手によって作り出されたドラマなら「起承転結」があって結末は最後に訪れるものだけど、現実はちょっと違う。「結」から始まって、次の盛り上がりを待っているうちに幕を閉じてしまうことだってある。今回だって結果だけ見れば1周のレースの後に65周の長いパレードランが続いたつまらない内容に思えてしまう。でも史上初の開幕から5戦連続ワンツーフィニッシュってマクラーレン・ホンダのシーズン16戦15勝(1988年)とかベッテルの9連勝(2013年)とか、過去の偉業達成に並ぶもの凄いことが起きているような気がする。

きっと何年か経って、誰かと居酒屋あたりで今年の思い出話をするんじゃないかなって思う。そのときには、あれは栄光の始まりの頃だったよねって言ってるのか、それともあの頃は輝いていたよねって言ってるのか、ちょっと楽しみにしてる。

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