【WRC 2019】世界ラリー選手権 第5戦ラリー・アルゼンチン/人生は上り坂ばかりだけど

最終ステージ、首位のティエリー・ヌービルとの差は約40秒。アンドレアス・ミケルセンに求められるのは勝利ではなく2位のポジションを守るための走り。楽なようでも、それがいかに難しいことなのか彼は知っている。

どこまでも広がる青い空に向かって駆け上がっていく。ラリー・アルゼンチンを締めくくるのは名物ステージのエル・コンドル16.43km。フィニッシュ地点に向かってひたすら登りが続く未舗装の路面にはラリー開催初日まで降り続いた雨の名残が残り、コースのところどころに水たまりが真っ青な色を反射させている。

スタートすると隆起する草原が目の前に広がり、コース脇に並ぶ観戦者たちの声援を受けながら険しい山道へと向かっていく。民家。背の高い植物。そして徐々に、ゴツゴツとした岩場を縫うように作られた狭いルートへと景色が変化していく。

今季は初戦から調子は悪くないというのに結果には全く繋がらなかった。ラリー・モンテカルロステージ9まで4位につけていながらマシンを破損してリタイア、2戦目のラリー・スウェーデンでは首位のオィット・タナクに手が届きそうだったが徐々に引き離され、最後はエサペッカ・ラッピとヌービルに追い抜かれた。ラリー・メキシコではステージ4まで首位を走行していたがリタイアに終わり、第4戦のツール・ド・コルスはローブにシートを譲ることになった。いつも何かが噛み合わない。その思いが心の中に染み付いている。

ミスさえせず走りきれば勝てる。過去に三度勝利しただけで、当たり前のようにできると思ってはいなかっただろうか。ライバルたちの不運と立て続けに手にした幸運で、自分自身の能力を過大評価してはいなかっただろうか。ミスするリスクを最小限に抑えながらトップタイムをマークする、その両立がいかに難しいことなのか、今なら痛いほどわかる。今回だってパンクのタイムロスを運良く挽回できただけだ。実力だけでは届かなかった。

どうやって登ったのか、切り立った岩の上で手を振る多くの人の姿が見える。一瞬でもステアリング操作が遅れれば吸い込まれそうな岩場が続く見通しの悪い上り坂。コース幅も狭く急なコーナーも多い。ヘアピンの減速でストール寸前に追い込まれるマシンを、スロットルを踏み込んで前へ前へと走らせる。踏み込みすぎれば滑りやすい路面上で簡単に横を向く。4日間でのタイムアタック区間は計347.5km、締めくくりの16km余りでさえ油断すればいとも容易くゲームオーバーが訪れる。後続とは20秒以上の差があった。無理をする必要はないと自分に言い聞かせながら、丁寧に、丁寧にマシンをゴール地点までコントロールする。もう一度、ここからスタートだ。強いチームと良きライバルが付いている。まだ運に見放されてはいないのだから。

フィニッシュラインに飛び込むと視界が一気に開けた。今季初めての表彰台。コ・ドライバーのアンダース・イェーガーと硬い握手を交わし、チームへの感謝を無線で送る。2分後には最終走者のヌービルも勝利の雄叫びを上げながらやって来るだろう。同じチームになって初めてのワンツーだ。彼の上に立てなかった悔しい気持ちもなくはない。でも。

どんなときも最後は笑顔で終わろう。良いときも、悪いときも。それだけは貫いてみせる。

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