【F1 2019】第4戦アゼルバイジャンGP/バルテリ・ボッタス、鋼鉄の意志

Photo by Pascal Richier on Unsplash

赤いライトがひとつ、またひとつと点灯していく。5つ目の光が灯り、全てが消えた瞬間からそこは戦場になった。

前戦ではスタートで出遅れた。どんな理由があれどバルテリ・ボッタスにとって二度目は許されない。プレッシャーがかかる瞬間で悪くない蹴り出し。しかしルイス・ハミルトンがさらに上回るスピードで飛び出し真横に並ぶ。ボッタスにとって非常に重要な、ハミルトンの前に出て抑え込む作戦は秒で潰える。

ターン1にほぼ同時に飛び込みコーナリング、ステアリングを戻してからの短い直線へと並走を続ける。すぐ右には縁石、左から寄せてくるハミルトンのマシンとは数十センチの間隔。フェアプレイには違いないが、接触でもしようものなら責任は全てボッタスに降りかかるように仕向けられたしたたかさ。それでも彼にしては優しめな広いマージン。ライバルを意識しているというよりもチームを気遣いながらの軽いお遊びといった様子だ。

ターン2も左コーナー。コース内側のハミルトンを、ボッタスが立ち上がりの僅かな加速力の違いで後方に押しやる。ハミルトンは譲ってやったのだと言わんばかりに落ち着き払った態度。後になって借りを返せとでも言ってくるのかもしれない。

綺麗な四角形を描くセクター1をクリアすると旧市街地の狭く曲がりくねったセクター2へと向かう。シケイン状のターン5、6を超えると、その先は別世界に足を踏み込んだかのように視野が狭まる。予選でロバート・クビサ、シャルル・ルクレールがクラッシュしたターン8から続く連続コーナーは、オンボードカメラの視点からではピットレーンを走行していると勘違いしてしまいそうなほど狭く、ボッタスの広くがっしりとした肩幅では通り抜けられないのでは?と無駄な心配が頭に浮かぶ。もちろん肩がウォールを掠めることはなく、いよいよ最後の第3セクターに入る。ターン16を過ぎると残りは全て全開区間、軽くステアリングを切りながら2.19kmのホームストレート、その先のターン1までフルスロットルで駆け抜ける。オープニングラップはボッタスが首位をキープ、ハミルトンはまだ無理をしてこないが序盤でトップに立っても勝てる確率は低いと読んでいるのだろう。


誰もが何かが起こることを期待していた。39周目、ついにそのときが訪れる。ピエール・ガスリーのマシンがトラブルを起こしスローダウン。だがバーチャルセーフティカーとなれば話は違ってくる。通常のセーフティカーのように隊列の再編成がなく各マシンの車間距離は保たれる。攻める側からすると単にチャンスが刻一刻と失われている時間帯になる。

ただ守る側のボッタスにとっては嬉しい誤算だ。序盤で大きなマージンを築いておきたかったがハミルトンはそれを許さなかった。1秒あれば勝利が覆る勝負の中ではほんの数周のインターバルでも大きな援護射撃になる。レース再開後のプッシュで2台のギャップは約3.6秒と広がった。絶対に勝つという強い意志がボッタスのマシンの挙動からも伝わってくる。鋭くセンシティブな動きのハミルトンとは真逆の、質実剛健とした走り。どうして同じマシンなのにここまで違って見えるのか。

残りわずか3周でリタイアに追い込まれた昨年の悪夢。今回はその先にある勝利へと踏み込んでいく。幸いにもソフトタイヤには余裕があり、マシンにも一切の問題はなさそうに見える。ただ、ボッタスの背後からは冷たい殺気が忍び寄ってくる。ハミルトンが最後の猛攻を見せる。世界一速い男に背後から襲われる恐怖はどれほどのものだろう。例えば、夜道を歩いていたら後ろから包丁を持った白装束のBBAが叫びながら突進してくるくらいの怖さだろうか。その状態で町内を3周しなければならないとしたら気が狂いそうだ。そんなプレッシャーを受けながらボッタスは戦っている。しかも完璧なマシンコントロールを継続しながら。

ハミルトンが迫ってくる。ついにDRSが使える距離に近づく。一度オーバーテイクされてしまえば抜き返すのは厳しい。幸運にもボッタスはストレートでバックマーカーの姿を捉え、背後についてDRSの恩恵を受ける。さすがに観念したのかハミルトンの気迫が遠のく。ファイナルラップを周り長い戦いが終わりを迎える。

メルセデスとしては史上初の開幕4連続ワンツーフィニッシュ。チームのドライバーは最強のマシンを手に入れたことになるが、一方で最強のライバルと戦い続けなければならないのだから全く安心できない。1チーム2台制というのは実に良くできている。ニコ・ロズベルグの苦悩が思い浮かぶ。だけど今年のチームメイト同士の争いは、それ以上の歴史的なものになりそうな予感がする。

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