【映画感想】劇場版 響け!ユーフォニアム 誓いのフィナーレ/なんにもならなくたって

劇場版 響け!ユーフォニアム 誓いのフィナーレ
(C)武田綾乃・宝島社/「響け!」製作委員会

高坂さん、すごく大人っぽくなった。塚本くんの背中って、あんなに大きかったっけ。優子先輩、すごいな。視線が、感情が、主人公の隣へと降りていく。焦りと高揚感の中、一瞬でも立ち止まれば置き去りにされてしまうほど猛烈な勢いで過ぎていく高校生活。その中に放り込まれる。

そして―。

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先輩、後輩/心の叫び

気がつくと過去の記憶の中にいた。放課後、いつもの音楽室。イスを並べていると前の列を並べていたサックスパートの部員と目が合った。すぐ横には余ったイスが積まれたままになっていて、まだ慣れないね、と一緒に苦笑いする。なぜか揃って大胆で明るくて最強の世代と言われた三年生が引退し、残されたのは影で小粒揃いなんて噂されていた二年生と今年入ったばかりの一年生。去っていった人数も多かったから合奏のときの音の薄さに誰もが危機感を覚えた。

学校の部活動は残酷だ。みんなでどれだけ必死になって音楽を創り上げても1年間で必ず消えてしまうようにできている。先輩たちが担っていた音は永遠に失われ、残された者たちがそれぞれの形で埋めていくしかないのだ。覚悟を決めてからは学年なんて関係なく全員が上手くなろうともがき続けた。忘れたくない音色を追い求めているあまり、かつての先輩の音とそっくりになってしまう生徒が現れたりもした。

だけど新入生が入ってくると気付く。ここからは今までの続きではないのだと。

TVシリーズの初回から1年が経ち、主人公たちが二年生になり新しい後輩たちが加わるところから物語が始まる。上級生になったことで演奏以外の責務も増え、相談係や打ち合わせとかもうまくこなしていかなくちゃならない。何よりも他人に楽器を教えることの難しさったら。めんどくさ~、って黄前ちゃんの気持ちがすごくわかる。そんなこと言いながら先輩たちの面倒ごとに自分から首を突っ込んでいた彼女がどんなにめんどくさい新入生だったことか。でも、なんだかんだで周囲を変えていく。首を突っ込むだけで何もしないんだね、とあすか先輩に言われてしまった頃から成長してる。本当に1年経ったんだ(作中でだけど)と懐かしく思う。

吹奏楽部の部員たちによる群像劇を描いた劇場版2作から『リズと青い鳥』を経て最終章の『劇場版 響け!ユーフォニアム 誓いのフィナーレ』へと、三人称から二人称、最後は一人称へと視点が徐々に変化している。リズの場合は2人だけの特別な物語だから別として、これまで通りの演出にしてしまえば結局は賞でもらえるメダルの色の違いだけになってしまうから、これで良かったんだろう。学校生活って配役を替えながら毎年同じシナリオを繰り返す青春の舞台なのだから。

これまで滝先生が顧問になったことによる部全体の変革や、香織先輩と高坂さんの対立とかあすか先輩のこととか多くの問題が起こったけれど、なんとか乗り越えてきた。黄前ちゃんに心を揺り動かされた人たちは新たに前に向かって歩き出した。でもずっと心に引っかかっていたことがある。 黄前ちゃん自身はどこへ行くんだろうって。

音楽なんて誰でも続けられるもんじゃない。努力するのは当たり前、そのうえ才能が必要で、経済力だってないと厳しい。ましてやユーフォなんてオーケストラでも滅多に使われず、ジャズやポップスとも縁遠い楽器であればなおさらに狭き門だったりする。

だから多くの部員は部活の思い出に変えてすんなりと別の道を歩き出す。親だってしつこく将来のことを考えろって言い続ける。吹奏楽なんて社会のレールに乗る前のちょっとした遠回りみたいなものでしかなくて、その先に将来への道は存在しないとでも言わんばかりに。

だから黄前ちゃんの、ユーフォが上手くなりたいって声を聴いたとき、心が震えた。

どうしてこの思いを誰も認めてあげられないんだろう。公務員とか一流企業とか将来への薄っぺらなキーワードに安心してしまうのだろう。失敗が怖いから?長生きがしたいから?今よりも1音でもいいから高みに近づきたい。演奏に限ったことじゃなく、そんな風に強い意志の先にしか本当の未来はないはずなのに。

上手くなりたいって言葉が何よりも人間らしかった。これでいいんだって思った。人間らしさと社会が遠ざかってしまった世界の中では楽器を頑張ったことなんて何にもならなかったりするかもしれない。でも唇が腫れるほど練習し、それでも欲しい音に届かなくて悔し泣きした毎日が、いつかきっと心の支えになる日が来ると思うから。

コンクール

コンクールのシーンが始まると再び記憶の底に落ちていった。薄暗いステージの上を無重力空間の宇宙飛行士みたいにフワフワと漂いながら、舞台袖から定位置に向かって歩く。ザワザワとした気配と数えきれないほどの視線を感じる。いつも演奏している音楽室と違って十分過ぎる広さを持つ大ホールの舞台は、演奏者の配置がすごく離れていて心細くなる。イスに座ってもまだ夢の中にいるような気分が抜けない。去年のコンクール、最強世代の集大成は悔し涙で終わった。当たり前だと思われていたのに届かなかった選抜校入りの目標を受け継いで、今その場所にいる。 膝の上には先輩が奏でていた楽器がある。

ユーフォニアム。大きいのに地味な楽器。大切な人を抱きしめるときみたいに左腕を回し、右手は管に親指を掛けて残りの指を頭を撫でてあげる感じでそっと添える。太ももの上に乗せればマウスピースの位置が低すぎるし、両腕で持ち上げればずっしりと重い。なんだか不器用で、でもそこが愛らしい。構えると金属と唾液が混ざり合った匂いがする。ふぅ、と吹き込んだ息が大きなベルから出てくる空気と同じだなんて嘘みたい。指に軽く力を入れてピストンを押し込めば、スン、と滑らかに降りていく。4番、3番、2番、そして1番。大丈夫、どの指もいつも通り動く。ようやく落ち着いてきて、楽器を膝の上に寝かせる。照明がステージを照らし、光の中にいつもの横顔と後頭部が浮かび上がる。ユーフォのベルが光を反射して輝き出す。指揮者の手が挙がる。

クラリネットのトリルが空気を震わせる。フルートとホルンが呼応し合う。金管の重い低音が響き渡り、意識が映画に戻される。アニメが持つエネルギーと吹奏楽の楽しさを音符で描いたような去年の自由曲とは真逆の、感情表現たっぷりの美しい物語の幕がゆっくりと上がっていく。

映画ってすごい。聴きたい音のある場所にピタリと視線が重なる。演奏者の動きを丁寧に拾い集める。瞳に映った先の景色が見える。ゆったりとしたテンポでメリーゴーラウンドみたいにステージが回り始める。音楽ってすごい。音の波に飲み込まれる。キラキラした音符が見える。オーボエの音が悲しげに、でも力強く高い空へと舞い上がっていく。

課題曲と自由曲、合わせても12分。たったそれだけの時間の中に、サンフェスや駅ビルコンサートでの演奏経験、そして血の滲むような練習がギュッと詰まってる。できることならいつまでも聴いていたい。また1年後に訪れる最後のコンクールの曲も聴いてみたい。でも少し怖い。そこには大きな別れも待っているような気がするから。

【ふこうよ青い鳥】リズと青い鳥【ふこ吹3】

なんかこれ好き。

【吹奏楽】美しいユーフォニアムソロ “You raise me up” Euphonium Solo

ユーフォの音色に酔いしれる。


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