【F12019】第2戦バーレーンGP感想/魔王が転生したらF1ドライバーだった件

Photo by Pascal Richier on Unsplash

ついこの前開幕したと思ったら早くも2戦目を迎えたフォーミュラ1(F1世界選手権)の2019年シーズン。舞台となるのはペルシャ湾に浮かぶ島国バーレーン王国、バーレーン・インターナショナル・サーキットでのナイトレース。

3月31日(日)に行われた決勝の感想を書いていたつもりが、おかしな方向になっていきました。

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王位簒奪

秒単位で深く濃く色を変えていく空から地上を見下ろせば、ライトアップされたサーキットの輪郭が白く輝いて浮かび上がる。薄闇の中で強い風が周囲の木々を揺らしている。ガルフ・エアの旅客機が低空を滑り、これ見よがしに腹部に書かれたカンパニーロゴを見せつけている。

地上に意識を戻せば、アスファルトの上では次第に緊張感が高まり、ドライバーたちの目つきが爛々と輝きを増している。闘いに飢えた戦士の目だ。それは昔の記憶を呼び起こす。

かつて私は魔王として長きにわたり世界の全てを支配していた。ある日1人の勇者が現れ、死闘の末に敗北した。あのとき見た勇者の瞳に似ている。

闘いに敗れ肉体を失った私の精神は時空の狭間を漂流し異世界の肉体と結びついた。シャルルという名を与えられた1人の人間として生きていくことになった私は、モナコという人間界においては比較的裕福な街で成長するうちに、誰よりも速い者がこの世界の覇者なのだと知った。興味を持った私は次々と速い乗り物を手に入れながらF1という頂点の舞台に辿り着き、ついに最速(らしい)の赤いマシンを手中に収めた。まだまだ未完成だが魔力を使わずとも扱いやすく、今のところ気に入っている。

今回が2度目の戦いだ。ここバーレーンでは開幕戦のように手加減せず攻め続けた。するとオークのような咆哮を上げてマシンが突き進んだ。楽しくて仕方がない。気付けば予選は終わり、1:27.866というコースレコードでポールポジションを獲得していた。

そして決勝が始まる。

F1での初のポールスタートは、さすがの私でも緊張するものだ。思うように手足が動かない。1つ、2つとレッドシグナルが点灯していき、5つ目。直後、全シグナルがブラックアウトしてレースが始まる。蹴り出しは悪くなかったが2速、3速と繋ぐ加速の段階でセバスチャン・ベッテルに遅れをとり、オープニングラップのターン1であっさりと首位を奪われる。すぐさま抜き返そうと焦ったのが裏目に出てバルテリ・ボッタスにまで抜かれ3番手まで順位を下げしまった。何たる不覚。

動揺する気持ち落ち着かせ、しつこいハミルトンをあしらいつつタイヤに熱が入るのを待つ。焦ることはないのだ。落ち着け魔王。

2周目のホームストレートでボッタスに迫る。ターン1へのアプローチ直前にイン側に飛び込む素振りを見せて揺さぶりながら、威力を抑えた土属性魔法を前方に放つ。この魔法は瞬間的にタイヤのグリップを減少させ、ブレーキング中のマシンの制動距離を僅かに伸ばすことができる。人間の目にはボッタスがコーナリング時のオーバースピードで勝手にバランスを崩したようにしか見えなかったはずだ。彼の脇をすり抜け2番手に順位を上げて前を追う。

その先にいるベッテルとの差は約2秒。1ラップあたり0.5秒ほど詰め寄り5周目には追いついてしまった。だが明らかにペースの上回る私のマシンをベッテルは前に出そうとはしない。チームも何も言ってこない。このチームはまだベッテルを王として崇めているのか。ならば。

今度は無線を通してピットにいるクルーたちに魔素を送り込む。全員が一種の催眠状態に陥ったところで惚れ惚れするようなオーバーテイクを披露し一気に心を引き寄せてやろうではないか。

ベッテルのすぐ後方に付いたままターン15の最終コーナーを立ち上がり、ホームストレートで風属性のディーアールエスを発動する。この魔法はリアウイングの形状を変化させて空気抵抗を減らし、マシンの加速性能を飛躍的に向上させるのだ。すぐ前にあるテールランプがグングンと近づいてくる。スリップに入られたのを嫌がったのか、それともイン側を締めたのか、ベッテルがマシンを右側に寄せる。しかしインだろうとアウトだろうと関係ない。ベッテルの左側から並ぶ間も与えずマシン1台分、前に出る。そしてレイトブレーキング。ターン1で元チャンピオンを攻略しての完璧なオーバーテイク。これでチームの誰もが私の虜になり、タイヤ交換のタイミングもハミルトンの攻撃に苦労しているベッテルを放置して優先してくれるようになった。このフェラーリという老舗チームは私が完全掌握した。ちなみにベッテルは後に失態を演じるのだが私は一切関与していない。

新たなる称号

2度目のタイヤ交換も問題なく済ませ、後続のハミルトンとの差は約10秒。初勝利まで残り10周あまりのみ。これで世界征服にも弾みがつくだろうと思っていた矢先だった。エンジンが突然パワーを失った。トラブル発生だ。かろうじて走行は続けられそうだがスピードが出ない。

チームからの無線を聞く限り、今のところ修正の目処が立たないようだ。どうしたものか。私自身にできることがないかステアリング中央部のディスプレイを操作して調べてみたが、デジタル化された情報の中からは解決方法を見いだせなかった。

データとして捉えられない物理的なパーツの破損。燃焼系のトラブルか。ドラゴンブレスでのアシストも検討してみたが火力が大きすぎて使えない。今はとりあえず落ち着くことだ。冷静になってからバックミラーに目を向けると黒い尻尾が見え隠れしている。あいつ、サーキットの魔物だ。私が魔王だと知らずに近づいてきたらしい。今はこのような人間の姿をしているので無理もないが。

ちょっと気になったのでステアリングのディスプレイに私のステータス画面を表示させてみた。思っていたとおり魅力のステータスが大幅に上昇していた。インフォメーションウィンドウにも新しいメッセージが表示されていた。

「レア称号、”悲劇のヒーロー”を手に入れました」

せめてもの償い

1周で約5秒のラップタイム差があると防戦のしようもない。トラブル発生からたったの2周で難なく追いついたハミルトンが申し訳なさそうに、しかし遠慮なく抜き去っていく。30秒以上の差があったボッタス、そのすぐ後ろのフェルスタッペンも猛追してくる。

残り3周のところで為す術もなくボッタス順位を譲る。追いかける力はもう残されていなかった。これで3番手。さらに後ろのフェルスタッペンとは約7差、2周もあれば足りてしまう。

今できることは傷ついたマシンで最後まで走り切ることのみ。これくらいの試練など勇者との闘いに比べれば大した事ではないか。そう言い聞かせて耐える。それでもチームとの無線に冷静に答えた声の中に荒ぶる感情が滲み出てしまっていた。

あぁ神様、私はどうしたらいいのだ!

無線のスイッチを切り冗談交じりに心の中でそう叫んだ刹那、見えない雷撃がサーキットに落ちた。人の目には見えない稲妻は黄色いマシンを直撃し、一瞬でリタイアに追い込んだ。影響は同じチームのもう1台にも及び、ほぼ同時に2台のマシンが止まった。

なぜ後方のマシンを?と思っていたらセーフティーカーが導入された。さほど危険でもなく、残り2周での対応に多少の不自然さはあるが、これで3位のポジションは盤石になった。本当に神が手助けをしてくれたのかと一瞬焦ったが、どうやらサーキットの魔物が私の正体に気づいてせめてもの償いをと思ったようだ。まとめて2台も仕留めてしまったが、元々問題のありそうなマシンだったので怪しまれたりしないだろう。

いよいよファイナルラップ。セーフティーカーの先導に合わせてスローペースで走り続ける。慣れないのもあるがハイペースよりも気を使うものだ。うっかりストールさせてしまえばオークは二度と目覚めないかもしれないから慎重にコントロールする。

最後の直線の先にチェッカーフラッグが揺れている。初優勝はおあずけになってしまったが、それは私がサーキットの魔物を軽視していたのが悪いのだ。事前に一言でも言葉をかけておけば防げたミスだ。

速いマシンだけでは勝てない。チーム全体を掌握し、コース(魔物)を把握し、最後の1秒まで冷静でいること。限界値の低い肉体で全てを満たすのは、もしかすると勇者に勝利するよりも難しいのかもしれない。

それにしても、転生先での異世界征服がこんなにも楽しいとは思わなかった。このシャルル・ルクレールさまが必ずこの世の全てを手に入れてやろう。

おわりに

今回は面白おかしく書いてしまいましたが、彼は苦労や挫折と縁のない人生を送ってきたわけではありません。これまでの道のりには、今まさにノリノリのマックス・フェルスタッペンを始めとする才能ある同世代ドライバーとの熾烈な戦い、そして幼馴染だったジュール・ビアンキの死など多くの苦難があり、それを乗り越えて現在のルクレールがあるのです。

他にもピエール・ガスリー、ジョージ・ラッセル、ランド・ノリス、アレクサンダー・アルボンなど新世代のドライバーたちが次々と登場する中で、その先頭に立つルクレールの存在はこれからも目が離せません。

第3戦中国GPは4月14日(日)に決勝が行われます。『魔王が転生したらF1ドライバーだった件』次回もお楽しみに!(ありません)


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