【フォーミュラE】シーズン5 第5戦香港E-Prix/悪魔の囁き

2019年3月10日(日)にフォーミュラE シーズン5(2018/2019)第5戦香港E-Prixが開催されました。場所は香港の中心部からも近いハーバーフロントエリア。アジアラウンド1戦目となるイベントも、これまで同様最後まで何が起こるかわからない激戦でした。

今回は、実力があるのに勝ちきれない男、サム・バード選手に焦点を当ててみました。

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悪魔の囁き

セーフティカー明けのグリーンフラッグが振られる。残りは約2分プラス1周のスプリント戦。周回にしてたったの3周のみ。前を行くアンドレ・ロッテラーのテールランプはサム・バードの視界のど真ん中で真っ赤に輝いている。全開で駆け抜けるメインストレートから一気に減速する右ヘアピンのターン1で イン側を空けないよう意識して走るロッテラーに対し、バードはアウト側から早速牽制を試みる。続くロングストレートでロッテラーはコースのアウト側、左に一度マシンを振ってからイン側に寄せ、ほぼ直角の右コーナーとなるターン2への進入前に横に並ぼうとするバードを外へ外へと押し出して動きを確実に封じる。オーバーテイクのチャンスはほぼ前半のこの2箇所しかない。完全にディフェンスモードのロッテラーがミスでもしない限り、その先のテクニカルなセクションで前に出られる可能性は無いに等しい。

序盤の戦略が当たっていれば、レースの展開は間違いなくバード有利なはずだった。7番手からスタートしたバードはオープニングラップで一気にジャンプアップ、3番手スタートのロッテラーの前に踊り出た。レッドフラッグによるレース中断から再開後に自らのミスでロッテラーに前を譲るも、レース残り23分の時点でロッテラーに対し4%も多くバッテリー残量を残していた。フォーミュラEの創世記から培ったエネルギーマネジメントの経験は、終盤でロッテラーを仕留める大きな武器になるはずだった。

なのに、何度も起こるアクシデントが作戦を狂わせる。残り19分を過ぎたところでストフェル・バンドーンが、残り7分になろうというタイミングでオリバー・ローランドがコース上でストップしてセーフティカーが入り2人の戦いに水を差す。イエローフラッグが振られるたびにロッテラーのマシンは過酷なバッテリー負荷から開放され、バードの方は余剰なエネルギーを持て余し、精神的な負担が大きくなっていく。


このまま2位フィニッシュでもチャンピオンシップにとって有利になるはず。でも昨シーズンからは弱点を克服するかのように積極的な走りをするようになったバードは今回、着実な実績と己の誇りのどちらを選ぶのか。

最終コーナーのターン10を加速しながら立ち上がり、メインストレートから再びターン1を目指す。チャンスは残り2回。ロッテラーはコース中央。バードはわずかにアウト側の左寄り。そこからどう動くのか。2台のマシンの感覚が迫っていく。ここはロッテラーがギリギリのところでアウト側にマシンを振ってバードのラインを塞ぎにかかる。バードが接触寸前で踏みとどまる。ロッテラーからは必死さと、絶対に当たり負けしないという自信が伝わってくる。

順位は変わらずターン1のヘアピンをクリアし、すぐさま2台がストレートで加速する。コース中央を陣取るロッテラーは若干アウト側の左に寄せる。それを見たバードがインを突こうと右側にノーズを向ける。しかしロッテラーも同じ方向に動いた。

フルブレーキング。軽い接触の衝撃がコクピットを揺らす。ダメージの程度はわからないが、お互いコース上に踏みとどまった。最悪の状況にはないことを知り、バードがさらに追撃をかける。ほんの僅かにロッテラーの反応が遅いがコーナー続きのセクションでなんとか踏みとどまる。でもどこか様子がおかしい。

突然ロッテラーのタイヤから煙が吹き上がり、金色のマシンがスピードを失っていく。原因は間違いなくバードとの接触によるものだった。これで戦いは終わり、苦い後味の悪さが残る結末を迎えた。暫定優勝という形でフィニッシュした後もバードは硬い表情を崩さなかった。

オーバーランののミス、戦略を狂わせる予想外のアクシデント。そして苦手なタイプの相手。シーズン1から毎年勝利できる実力を持っていながらチャンピオンになれないバードの弱みは精神的な弱さなのかもしれない。好調なら圧勝逃げ切りができるのに競り合いになると弱いところを見せてしまう。特にかつてのチームメイト、ジャン-エリック・ベルニュやホセ・マリア・ロペスのようなファイタータイプにはいつも苦しめられていた。レース巧者のロッテラーからも同じようなタフさを感じた。

いつだって挑戦には乗り越え無くてはならない大きな壁が立ちふさがる。もうすぐ折り返し地点を迎えるフォーミュラEのシーズンが次々と新しい勝者を生み出す中で、フォーミュラE優勝経験者からフォーミュラEチャンピオンになるための壁を、バードは今シーズンこそ超えることができるのだろうか。

おわりに

3月23日(土)に行われた第6戦三亜E-Prixの感想もYouTubeでの決勝レース配信後にお届けします。

続いて4月13日(土)には早くもシーズン折返しとなる第7戦ローマE-Prixが開催され、今シーズンから一躍脚光を浴びることになったフォーミュラEの新時代も後半戦へと向かいます。

これからもお楽しみに!

YouTube配信動画

香港E-Prrix 決勝フル配信動画

香港E-Prix 決勝ハイライト動画



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