
ステージの照明が落ちると、緩やかなメロディーが波を描く。音の学問が生まれたとき、きっと誰かが最初に奏でた普遍の旋律。
そこに声が重なる。少し硬質で、音の始まりから終わりまで輪郭がはっきりしてる。例えるならトランペット?いやもう少し柔らかいコルネットの音色かも。サポートギターの木下さん、ドラムのUさん、そしてコンノさんの息吹きが混ざり合う。心がザワザワする。なんだか凄いものが目の前にある。
瑞葵さんの声がどこまでも伸びていく。高く、高く。最高地点に達したとき、UNIDOTSとしての音楽が目を覚ました。
本性はライブでしか伝わらない?
2曲、3曲、4曲。どこまで行くの?と思っちゃうくらいにMCも挟まず立て続けに叩きつけてくるエネルギーの塊。なのに「平常運転ですけど何か?」と言わんばかりに冷静に刻まれるリズムと場馴れしたパフォーマンス。何も知らないままに放り込まれた僕ですら、圧倒的な牽引力に吸い寄せられていつしか会場と一体になっている。
大人しめな動きだった瑞葵さんも、マイクスタンドを後ろに下げたあたりから全身で動き始める。サウンドのうねりと一体化して、白いドレスがライトを浴びて揺れる。決して派手じゃないけど、手の動き1つで会場の視線を釘付けにする。
正直に言うと、この日のこの時間までUNIDOTSさんの音楽を知らなかった。事前に公開されていたMVは『舗道に咲いた花』だけ。他に確認できるのは瑞葵さんがmizuki名義で参加している澤野弘之さんのプロジェクト、SawanoHiroyuki[nZk]の楽曲くらい。どちらからも高い歌唱力は伝わってくるんだけど(下の方にリンク貼ってあります)彼女の持つ一面でしかなくて本当の姿じゃない。
じゃあ本来の姿はどんな感じかって言うと正直答えがわからない。ダンサブルな曲調もメロウな楽曲も全部UNIDOTSさんの色を持っている。ステージごとに形を変えて最高のライブ感を創造できる、それが彼らの音楽なのかもしれない。
ぶっ通しで駆け抜けた会場に、ようやく言葉が届く。
「最後の曲です」
からの、
「最後じゃなかった」。
ここで笑いに包まれて、上がりきったテンションがニュートラルに戻される。流れるのはMVも発表されている『舗道に咲いた花』。さっきまでと打って変わって感情に揺れる歌声。YouTubeとは全然別物の生身の思いが、落ち着きを取り戻した心に届く。
アンコールに入ると過去と現在の曲が入り交じる。曲調も重みも全然違うのに、どっちにもらしさがある。ロックとかテクノとかそんなものは表現の手段でしかないんだと思う。勢いづいてるときもあれば、どうしていいかわかんなくなる日もある。そんな想いを形に変えて届ける、音楽が持つ普遍の力。瑞葵さんの声が、コンノさんのサウンドが、メンバーの奏でる音が、曲によってガラリと姿を変えるのに全部つながっているように聞こえるのは、その力の強さがあるからなんだろうな。
おわりに
ゆらぎのない自信に満ちたライブ。でも曲のタイトルや歌詞の中に、ふとした不安や迷いがあって。そうだよね、それでも生きていく人たちを支えるのが音楽なんだって、当たり前のことを取り戻す。
孵化と銘打った今回のライブ。会場に足を運んだ全ての人が、今まで殻に包まれたままだった気持ちを孵す、そんなスタートの場所でありますように。
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