【フォーミュラE】シーズン5 第4戦メキシコシティE-Prix/電気仕掛けの神様

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Photo by Pascal Richier on Unsplash

2019年2月16日(土)にフォーミュラE シーズン5(2018/2019)第4戦メキシコシティE-Prixが開催されました。舞台は首都メキシコシティのアウトドローモ・エルマノス・ロドリゲス。今回も最後の最後まで目を離せない内容になった一戦のハイライトシーンを、妄想を交えながら振り返ってみます。

標高2,250メートルにあるサーキットコースで「これまでフォーミュラEで戦ってきた中で最高のレースだった」と勝者に言わしめた衝撃のフィナーレを、ぜひご自身の目で確かめてみてください!

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遠ざかる完璧な週末

完璧な週末になるはずだった。フォーミュラEのデビューシーズンで初のポールポジション獲得、そして決勝でも安定したスタート。首位の座はレッドフラッグが解除された後も盤石で、このまま誰にも明け渡すことなくフィニッシュする自信があった。パスカル・ウェーレイン。元F1ドライバー。そんな肩書きはもういらない。欲しているのは勝者の証だ。

2番手を走行するオリバー・ローランドは確かな速さを持っているが激しく攻めてはこない。付かず離れずの状態で、しっかりとブロックラインを抑えれば無理な飛び込みはないだろう。F1のスピードに比べれば最高速度は100kmほども遅く、その分周囲を感じ取る余裕がある。事前に彼の動きを察知することは容易だった。

だが残りレースも残り10分を切ったところで不意に後ろから冷たいプレッシャーを感じた。サイドミラーに鈍い銀色のマシンの姿はなく、白地に赤と緑が配色されたカラフルなマシンの姿が見えた。 2年前の王者、ルーカス・ディ・グラッシ。最速と言われたセバスチャンブエミの2戦欠場がなければチャンピオンにはなれなかった男だ。強いが怖くはない。頭をよぎったその考えが一瞬で吹き飛んだ。

ディ・グラッシはアタックモードのパワーを利用して一気に差を詰めてきた。ローランドとは違う本物の走りだ。危険な男だと本能が警告する。すぐにこちらもアクティベートゾーンを通過してアタックモードを起動する。ストレートの伸びは向こうに分がある。コーナー立ち上がりでも離せないからシケインで内側に飛び込まれないよう注意が必要だ。チームから無線でワンモアラップと連絡が入る。あと約1周でディ・グラッシのアタックモードは終了する。少ないバッテリーの残量を気にする余裕もなく全力で逃げる。

強いプレッシャーが遠のく。勝った。そう思った。

今のうちに引き離してから燃費走行に切り替えたい。作戦を練りながらミラーを覗く。だがそこには気配を殺して狙いを定めるハンターの姿があった。離れない。無理に攻めても来ないが隙を見せれば確実に捉えられる。これがチャンピオンを名乗る者の実力なのか。

バッテリー残量が厳しい。あと1周回分でも余裕があれば確実に勝てるはずなのに。レッドフラッグの直後にピットに入らずに1周だけ無駄に走行してしまった取るに足らない失敗が、まさかこんなところで影響してくるとは。

残り1分。限界が近い。早く終わってくれないか。ディ・グラッシを牽制しながらホームストレートを駆け抜ける。残りはほぼ2周、保ってギリギリのタイミングだ。

ようやくファイナルラップに入る。もう防戦一方だ。どんな汚い手を使っても勝ってやる。相手はラフプレイをしてこない。勝ち目はそこにしかなかった。

最後のシケインを立ち上がり緩い右コーナーへ。すかさずインを締める。軽く左に振ってアウトに出ようとするディ・グラッシを牽制する。最後のストレートに向かう。その先にチェッカーフラッグが揺れているのが見える。あと少し。

勝てる。届く。そう考えた瞬間、世界が止まり静寂に包まれた。いや、止まっているのは自分だけだった。

F1とは違うフォーミュラEの世界。ここにはきっと、電気仕掛けの神様がいる。

機械仕掛けの神様

メキシコには「グアダルーペの聖母」という言い伝えがある。かつてこの地に姿を現した聖母マリアは、大聖堂建設の啓示をフアン・ディエゴに与え、彼の親類を癒やしたという。

メキシコは、アウディに恩恵を与えてくれる特別な場所だ。2018年までに3度の開催で2勝と相性が良く、今回は表彰台圏内をキープできている。今シーズンも序盤から苦戦し、前回ようやく手に入れたポールポジションは下らないペナルティで抹消された。ここでようやく癒やしをえることができるかもしれない。

オープニングラップでローランドに意表を突かれ3番手に順位を落としたが、これまでの3戦を振り返ってみると概ね満足できる内容だった。

レースはレッドフラッグによる混乱から落ち着きを取り戻し、残り10分を切った。後方のセバスチャン・ブエミがアタックモードを起動して追い上げてくるのが見えた。そろそろラストスパートの頃合いだ。こちらもアクティベート・ゾーンを通過してスロットルを踏み込む。225kWにアップしたエネルギーがモーターをフル回転させる。牽制し合う前の2台に追いつくまでに、そう時間はかからなかった。

バッテリーの消費量を考えると、前を行くウェーレインとローランドの2人を仕留めるのは厳しい。無理をしても2位までだろう。3位表彰台でも上出来の結果だ。

そう考えていた。 が、突然に光が差した。見えない何かに導かれている。そう感じた。

目の前でアクティベートゾーンに入ろうとしたローランドのマシンが挙動を乱してアウト側に流れていった。レコードラインがポッカリと空いていた。無意識に飛び込む。オープニングラップで奪われた順位があっさりと戻ってきた。しかもローランドはチームメイトのブエミと接触し、後方には大きなスペースまで生まれた。これで後ろを気にせずに済む。

ノーマルモードで巡航するウェーレインの姿がみるみる迫ってくる。残り7分。追いつけるか。だがここでウェーレインがアタックモードを起動した。同じパワーになれば手強い。ポールポジションを獲れる一発の速さに加えてF1の経験もあるから、このスピードでの駆け引きにも慣れている。攻めあぐねているうちにこちらのアタックモードが終わりを迎えた。ここまでかと思った。

しかし、マシンが前へ前へと突き進む。25kWの差など感じられないほど力強く空気を切り裂く。あと2分耐えきれば勝機はある。 必死さを決して表に出さない冷酷なハンターのように。

ターン1、そしてターン3のシケインではギリギリまで差を詰める。ターン6から12までのテクニカルセクションではほぼ互角。ターン13で少し引き離されるがすぐにターン14のシケインが待っている。ターン15の脱出速度を可能な限り引き上げれば、ホームストレートでピッタリ背後につける。空気抵抗が少ない分スピードは伸びるはずだ。負けない。ここでは引き下がらない。

残り3分。耐えきった。両マシンがノーマルモードに戻る。ここからは攻める番だ。 チャンスは1度か2度。

ターン3のシケインでインに飛び込む。勝った、と思ったがエスケープゾーンに逃げたウェーレインがそのままショートカットしてコースに戻ってしまった。審議対象になるかもしれないが確実ではない。ならこの手で仕留めるまでだ。ターン7、ターン8。彼は内側に隙を作らない。後はシケインしかない。だが読まれていた。ラインを潰されて前には出られない。さすがに手強い。また遠ざかった。

ファイナルラップ。攻めるが強引にインを締められる。必死だが後ろをよく見ている。いや、見えすぎている。なら勝機があるかもしれない。最後のシケインを立ち上がる。ここだ。軽くアウトにフェイントをかける。ウェーレインが一瞬だけ外側に意識を向ける。ようやく道が開いた。届くか。いや、届かせてみせる。

ファイナルラップのホームストレートに差し掛かる。フィニッシュ目前でウェーレインのマシンが急減速する。バッテリーが切れたのだ。冷静にステアリングを切ってインに飛び込む。ウォールと前のマシンとの間、ピッタリ1台分の幅。ゆさぶりをかけて生まれた一瞬の隙。

フィニッシュラインの向こうに褐色の肌の女神が見えた。微笑んで手を振る動きに合わせて、微かなアクチュエーターの音が聞こえたような気がした。

公式配信動画

Magic In Mexico! Race Highlights – 2019 CBMM Niobium Mexico City E-Prix

2019 CBMM Niobium Mexico City E-Prix (Season 5 – Race 4) – Full Race

おわりに

マスター・オブ・メキシコ、ルーカス・ディ・グラッシ選手の復活優勝で幕を閉じたメキシコシティE-Prix。このレースは歴史に残る一戦になるでしょう。ウェーレインも実力を発揮し始め注目のドライバーとして急浮上してきました。次こそ初優勝なるでしょうか?

第5戦ホンコンE-Prixは3月10日決勝です。お楽しみに!

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