【WRC2018】世界ラリー選手権 最終戦ラリー・オーストラリア/タイトル争い大混乱

ラリー・オーストラリア

ジャンプ、ウォータースプラッシュ、レース後半には強い雨。27台のエントリーのうち最後まで完走できたのは15台、優勝争いの混沌と大荒れの天気がもたらしたのは、思いもよらないプレゼントでした。

悲願のタイトルを支えたご褒美

前戦でも最終日スタート時点では首位に立っていたはずのに、儚くも崩れていった今季初勝利。今回も好走してるのに、チャンピオンを目指して走るチームメイトがトップへと躍り出てしまうと今回も諦めるしかないのかな、そんなふうに思ってた。そのうえ土曜日の最終走行では雨が降り出し、コンディションの良いうちに走ったドライバーたちより大きくタイムを落としてしまう。首位のタナクには約20秒の差をつけられ、後ろから迫るパッドンとは1.9秒差。残すは最終日の6ステージのみ。

それでも、ラトバラさんはこの困難を耐えて順位を守りきってくれました。トヨタのエースだけど今季はまだ未勝利。表舞台で輝くのは今年移籍してきたばかりのチームメイト。それでもまだ勝つことを諦めていないし、もちろんチームのために全力を尽くすことも忘れていませんでした。ドライバーズタイトルとコ・ドライバータイトルにはもう手が届かないけれど、マニファクチャラーズタイトルという大事な栄冠を手にするためにタナクだけでなくラトバラさんの力も必要なのですよ。

 

日曜日。ラリー・オーストラリアの最終日でもあり、1月からスタートした長い長いWRCカレンダーの最終日。雨は上がったものの地面はまだ濡れていて滑りやすく、慎重に走らなければあっという間にコースオフしてしまう危険なコンディション。全車ミシュランのミディアムコンパウンド5本を選択し、タイヤ戦略での大きな差はなさそう。

まずは朝一番のステージ。あえてリスクを負っても逆転優勝を狙うタナク、そしてヌービルが飛ばすのは理解できる。でもそれ以上にラトバラさんが速い。笑えるくらい速い。この日2つ目のステージで一気にトップに立つと、ギリギリまで攻めていたヌービル、そしてタナクがたった一瞬のミスで消えていき、最終ステージ直前では2位に繰り上がったパッドンに30秒以上の差をつけていたのです。

 

どうしても勝てなかった、今季のWRC。勝てる瞬間はこんなにもあっさりとやって来る。

 

だけどラトバラさんを応援しているときは最後までドキドキです。ちょっとプレッシャーに弱いところがあるし、トヨタに移籍してからは何度となく肝心なところでメカニカルトラブルが起こる不運も目にしてきました。それに加えて去年のラリー・オーストラリアはヌービルとの一騎打ちに全力プッシュで挑んでミスってしまいリタイアした場所で、ある意味トラウマステージ。2位につけているのはマニファクチャラーズタイトルを争うヒュンダイのパッドン。何か起これば全てを失う可能性だってあります。

 

だけど今回は2位との差も大きいので心にも余裕がある様子。最終ステージではスタートから全く危なげのない走りを貫き通し、最後は雄叫びを上げてフィニッシュ。好タイムで5番手に入り優勝にパワーステージの1ポイントが加わりました。マニファクチャラーズタイトルも手にして、これでもう無冠じゃありませんよ!

 

正直言うと、どうしてもっと早くこの勝利の瞬間が訪れてくれなかったんだろうなんて思ったりもしました。去年だって今年だっていつも大事なときにチャンスが逃げていって、なんでだろう、なんでだろうって悔しい思いをしてきました。それでも諦めなかった努力に対して今年1度の優勝ってなんだか報われてないような気がするなって。

でもそうじゃなくて、ここで優勝してタイトルを決めるっていう最高の舞台のために今までの苦労があったのかもしれません。

次のシーズンはドライバーとしてのタイトルを目指す新しい領域へのチャレンジになるのかな。ライバル増えちゃったけど今年後半の安定っぷりが発揮できれば届く可能性もあるはず。

 

ともあれ、ラトバラさん優勝おめでとうございます。来年はもっと輝けることを祈っています。

 

トヨタ・ガズー・レーシングWRT(TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team)

マシン:トヨタ ヤリスWRC

ヤリ‐マティ・ラトバラ選手/ミーカ・アンティラ選手:優勝
エサペッカ・ラッピ選手/ヤンネ・フェルム 選手:4位
オット・タナク選手/マルティン・ヤルベオヤ選手:リタイア

マニファクチャラーズタイトルの獲得と、ドライバーズ、コ・ドライバーズタイトルでは3位から5位まで3人がならぶド安定の成績。間違いなく今季最高のマシンを作り上げた最強のチームです。メカニカルトラブルや不運なアクシデントもありましたが参戦2年目でタイトル獲得、今シーズンはタナクの加入で軸がしっかりして、全体がうまく回って、なんだかすっごく良いチームでした

タナクのリタイアはチームオーダーでラトバラを下げれば防げたのかもしれません。Mスポーツならやったでしょうし、そうすればオジエの方が焦ってミスをしたかもしれません。でもそれをしなかったタナクとトヨタにスタンディングオベーションしたいくらい感動しました。勝つのも大事だけど、スポーツにとって勝利とは何かっていうことを教えてもらいました。

ラッピ選手も1年を通して活躍してくれました。特にパワーステージでの一発の速さは強烈でしたね。パワーステージ勝利数3回はチャンピオンを争ったヌービル、タナクと並びます。来年はシトロエンに移籍し、トヨタの強力なライバルになることでしょう。

来季は間にマニファクチャラーズタイトル連覇とドライバーズ、コ・ドライバーズタイトル両方が目標になります。できれば今年のチャンピオン候補にラトバラさんが入って四天王対決が見たいです。

 

ヒュンダイ・シェル・モービスWRT(Hyundai Shell Mobis World Rally Team)

マシン:ヒュンダイ i20 クーペ WRC((HYUNDAI i20 COUPE WRC)

ヘイデン・パッドン選手/セブ・マーシャル選手:2位
アンドレアス・ミケルセン選手/アンダース・イェーガー選手:11位
ティエリー・ヌービル選手/ニコラ・ジルソウル選手:リタイア

前半と後半で全く別人のようになってしまったヌービル。一度変わってしまった風向きを最後まで変えられず、最終戦はノーポイントで終わってしまいました。チームとしても期待していたミケルセン選手が思うように結果を残せず、念願のタイトル奪取は参戦2年目のトヨタに先を越されてしまうし、嬉しかったのはパッドン選手の好走くらいでしょうか。ソルドも調子が良かったのでドライバーの能力を出し切れていない感じになっちゃいました。

それにしてもヌービルの前半の強さは何だったんでしょうか。優勝してたころは足回りがガッチリとしてブレの少ないセッティングだったのにだんだんとフワフワした挙動になっていました。3台とも似たような傾向だったのでチームの方針だと思うんですが、サスペンションに問題でも抱えていたんですかね?

もう長いこと固定メンバーが続いていますが、そろそろパッドンあたり移籍しそうな予感があります。今ならMスポーツとかいいんじゃない?

 

シトロエン・トタル・アブダビWRT(CITROËN TOTAL ABU DHABI World Rally Team)

マシン:シトロエン C3 WRC(Citroën C3 WRC)

マッズ・オストベルグ選手/トシュテン・エリクセン選手:3位
クレイグ・ブリーン選手/スコット・マーチン選手:7位

シーズン途中から抜けたクリス・ミーク選手の穴埋めとして、正式にチームのドライバーになったオストベルグ。優勝はなかったけど表彰台は2回と決して悪くない成績ですが、いま1つインパクトが薄いので来季の去就はまだ未定。成績も走りもブリーンと似たような感じだし、オジエ、ラッピが加入するチームで残留するとしたらやっぱりブリーンの方かな。

喜んでも悔しくても泣いちゃうブリーンは、やっぱり今回も悔し泣き。悔しさをバネに来季もう1段上のレベルに上がれるといいなぁ。あとセバスチャン・ローブがスポット参戦するのか気になりますが、かつてのチームメイト、オジエと一緒に再び走る日が来るのでしょうか?

このチームは今季フル参戦できたドライバーがいません。そろそろレギュラードライバーを固めた方が良いと思います。

 

Mスポーツ・フォードWRT(M-SPORT FORD World Rally Team)

マシン:フォード フィエスタ WRC(FORD FIESTA WRC)

セバスチャン・オジエ選手/ジュリアン・イングラシア選手:5位
エルフィン・エバンス選手/フィル・ミルズ選手:6位
テーム・スニネン選手/ミッコ・マルックラ選手:リタイア

4チームのうち唯一表彰台に絡めなかったMスポーツのオジエが、タイトル争いを繰り広げたライバルたちの脱落により最終ステージを待たずに総合優勝を決めてパワーステージでもトップタイムでフィニッシュ(ミスっても優勝決まってるしね)。6年連続の栄冠を達成しました。

過去5回は圧倒的な強さで最終戦を待たずしてチャンピオンを決めてしまいましたが、今シーズンは大接戦。しかも挑戦者が2人も現れてプレッシャーはオジエ史上最高だったと思いますが、その中で勝てたのはさすがに現役最強王者です。

後半は速さで他チームに遅れを取り苦戦。チームオーダーや出走順をずらす行為(後にルールで禁止されました)で地味にポイントをかき集め、それが最後にライバルたちへの大きなプレッシャーになりました。たった1ポイントであっても全力で取りに行く貪欲な姿勢がなければ、正直王冠は他者の手に渡ったのではないかと思います。

ただその代償は大きく、少なくないポイントをチームメイトから譲ってもらったり、セバスチャン・ローブとの対決で負けちゃったりなのでイメージダウンが心配です。シトロエンでもう一度圧倒的な強さを見せてほしいですね。

今年はオジエのサポートに徹することになったエバンスは、オジエの抜けたMスポーツでどういう立場になるんでしょうねぇ。スニネンは来季はのびのび走れるから残留したほうが良いかもね。

 

おわりに

今回はジョーダン・セルセリディスという選手が出走していて、オンボードカメラの画像を見ていると、コーナーの先が見渡せるようになるまではアクセルを踏み込んだりしないんですね。通常はそうだと思いますが、トップドライバーたちはコ・ドライバーの言葉に命を預けて見えない先へ全開に踏み込むどころか、その先のコーナーに対する姿勢制御さえできちゃったりするんです。

F1などのサーキットレースとは違う次元のクレイジーな選手たちの勇気や、ラリーの面白さを少しでも多くの人に知ってもらうためにも、来シーズンもWRCを応援し続けます!

 

【動画】ステージ1 – 3 ハイライト

 

【動画】ステージ4 – 8 ハイライト

 

【動画】ステージ9 – 12 ハイライト

 

【動画】ステージ13 – 18 ハイライト

 

【動画】ステージ19 – 21 ハイライト

 

【動画】イベント ハイライト

 

画像の出典:TOYOTA GAZOO Racing