【映画感想】ウルフなシッシー/やがて愛しき痴話喧嘩

ウルフなシッシー

「人生はクソ」根矢涼香さんから手渡しで頂いた前売り券の裏には、そう書かれていた。全くその通りだ。もう一度、今度は声に出して読んで見る。

「人生はクソ」

本音を吐き出した後の心は奇妙に軽くなって、僕はニヤニヤしながら劇場からの帰路についた。

冒頭から早速ただならぬ気配。荒れるアヤコ(根矢涼香)。突然現れる辰夫(大野大輔)。どう考えても一緒にいて幸せになれなそうもない2人のバトルが、気まずい表情の人たちの前で唐突に始まる。

痴話喧嘩。この作品の世界を表現できる他の言葉が見つからないくらいの痴話喧嘩。迷惑この上ない。だけどこういう会話って、つい聞き耳を立ててしまう。トルティーヤの食べ方さえイラッとする辰夫の不要すぎるAV業界知識をうっかり吸収してしまい、観ているこっちの目もアヤコと同じ角度に釣り上がる。2人が同居するアパートに戻ると本格的な戦いのゴングが鳴り、激しく熱く不毛な泥仕合に苦笑いしながら長い長い夜の一戦を垣間見ることになる。

 

ほぼワンシチュエーションのコメディ。音声はノイズが乗ったままの、まさにリアルな空気。荒っぽいんだけど狭い室内でカメラの位置が丁寧に切り替わる細やかさもあって侮れない。

何よりも怖いのが、バカだなぁこの2人って笑ってしまう彼らの言葉には、見ないようにしていた自分自身の情けない部分が重なってきてだんだんと笑えなくなってくるところ。

そして始めはやべーヤツだと思っていた辰夫の心の中にブレない芯が見えてきて、馬鹿にしていた辰夫よりの方がずっと自分よりも男らしく感じられてしまいます。ちょっと気持ち悪いけど。アヤコの方も隠されていた人間性が徐々に現れて、予想の斜め上に向かって本性をさらけ出していく。劇場を出た頃には、なんで痴話喧嘩を見てたのにこんなに優しい気持ちになってるんだろうって、いや決してハッピーエンドなんかじゃないんだけど、軽く笑顔で劇場を後にしました。

 

かなり設定もクセがあって万人におすすめできる作品ではないけれど、行儀の良いセオリー通りの映画とは異なる、荒ぶる存在感がありました。これよく映画館で上映してくれたなぁと選んだ方々の見る目の鋭さに驚嘆と感謝です。

怖い顔ばかりのアヤコさんも、回想シーンでは見てるこっちがこっ恥ずかしくなるくらい可愛らしい笑顔のシーンもあったりして、いろんな表情が印象的。親友役の真柳美苗さんも、セクシーな役で登場するしじみさんも、なんだか会話劇なのに妙に表情が記憶に残る映画でした。舞台挨拶も映画の中と全く同じ表情で登壇された大野監督のお顔が一番脳裏に焼き付いてしまっているけど。

 

これからも、1年に1度くらいこういう映画に出会えたら嬉しいな。

 

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