【WRC2018】世界ラリー選手権 第10戦ラリー・トルコ/賢者のラリー

ラリー・トルコ

まんべんなくまぶしたココアパウダーの上には贅沢に敷き詰められたクラッシュアーモンド。スイーツだったら最高のシチュエーションだけど、これはラリーコースです。

そして、走る方には全然甘くない地獄みたいなレースでした。

未知なる地、トルコ。ラリー・ジャパンも開催されていた2010年以来8年振りにカレンダーに登場し、コースも一新されたために当時を知るラトバラなどベテランにとっても全く初体験の場所。30度を超える気温、そして荒れたグラベルの路面と走る前から大荒れの予感。

 

ステージ12、土曜日の最終ステージと最終日のを残してトップカテゴリのマシンは7台に減っていた。うち2台は大きく遅れ、無傷ではなくても戦い続けているのは5台のみ。

チャンピオンの座を争うオジエ、ヌービルを欠いた隊列はスニネンを先頭に静かな戦いが始める。不確実なルートにアクセルを踏み切れない。コーナーイン側のショートカットはリスクが大きく誰もがコース中央をキープするように走る。それでもルーズな路面はズルズルと外側にマシンを引きずり込もうとする。

ここまで生き残ったドライバーたちは知っている。ラリー・トルコで必要な能力は速さでもタフさでもなく(もちろんそれらも必要だけど)大自然と戦う知恵なのだ。チェスで対戦相手と向かい合うような。だから緊張感の密度はいつも以上に高まり、派手な戦いとは異なる精神的な戦いに目が離せなくなっていた。

 

迎えた最終パワーステージ。ペナルティを受けて復活したリタイア組もボーナスポイントを獲得できる最後のチャンス。入賞を逃したヌービルはもちろん全開で駆け抜ける。コーナー立ち上がりも早く、サスペンションもしっかり仕事をしている。キレはあるけど決して無理をし過ぎないアタックで堂々の最速タイム。

オジエも負けてはいられない。ヌービルとは対象的にコース幅を一杯に使ってスピードを殺さないように攻める。だけどマシンがフワフワしていてハンドルの切り返しも多い。ドリフトのアングルも決まらない。速度が出すぎているのか時折ワイドに膨らむ。アウト側のバンクに触れる。結局落ち着いていたヌービルには届かず2番手のタイムで終了。普段の彼ならここで最高のコンセントレーションを発揮できたはずなのに、表情には出ない焦りが走りに出てしまっているのだろうか。

優勝をほぼ確実にし、チャンピオン争いでも最有力候補に立つことになったタナクは無理のない走りでもしっかり3番手タイム、ラトバラも4番手タイムを奪い入賞に加えあっさりとボーナスポイントを手にしてしまった。タナクはこれで選手権2位となりヌービルまであと13ポイント差。残り3戦で十分手が届くところまでたどり着いた。

不可能を可能にする走り。そして可能な範囲で最大限の結果を出す走り。挑戦者として、そしてチャンピオンとして必要な能力を手に入れ、いよいよタナクはトヨタと共に頂点に挑む。

 

トヨタ・ガズー・レーシングWRT(TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team)

マシン:トヨタ ヤリスWRC

オット・タナク選手/マルティン・ヤルベオヤ選手:優勝
ヤリ‐マティ・ラトバラ選手/ミーカ・アンティラ選手:2位
エサペッカ・ラッピ選手/ヤンネ・フェルム 選手:リタイア

最後に頂点に立っていたのは、途中で頭を使った走りに切り換えたというタナクでした。こうすれば勝てる、という戦略というよりは最大限できる限りの努力をするって感じだと思うけど、結果として最後まで走り抜きトヨタ復活後初めてのワンツーフィニッシュにつながりました。ラッピがリタイアだったのが残念だったけど、これでマにファクチャラーランキングで首位になったし、タナクはチャンピオンシップ2位に浮上したし最終戦まで楽しみが続きそう。今度はワンツースリーフィニッシュも期待できるかな。

暑い場所が苦手なヤリスもDENSOさんのラジエーター投入のおかげで最後まで走りきってくれました。本当にいろんな人たちの知恵で走りきったラリーでした。これでようやく苦手なメキシコ戦とかでも戦えそう。

本当はラトバラに優勝してもらいたかったけど、あと残り3戦でせめて1勝でもして欲しいです。

 

ヒュンダイ・シェル・モービスWRT(Hyundai Shell Mobis World Rally Team)

マシン:ヒュンダイ i20 クーペ WRC((HYUNDAI i20 COUPE WRC)

ヘイデン・パッドン選手/セブ・マーシャル選手:3位
アンドレアス・ミケルセン選手/アンダース・イェーガー選手:5位
ティエリー・ヌービル選手/ニコラ・ジルソウル選手:16位

選手権争いが本格的になってからいい成績を出せなくなってしまったヌービル。オジエも一緒に調子を落としているので2人の差は開いたままですが、その間に伸びてきたタナクが間に入ってきちゃいました。

走りを見る限りマシンも安定していてドライビングも落ち着いていて、無理に攻めているわけではないのに蓄積したダメージのせいなのか突如左フロントダンパーがボンネットを突き破って顔を出しました。なんとか走れるように修理してステージは完走しましたが結局リタイアに。残念だけど、よく修理できたなぁ。次のラリーGBも荒れそうなレースだし、この根性が実って欲しい。

そしてミケルセンもツイてない。それでも走りきったら5位になっちゃった。この人の場合不調はヒュンダイに移籍してからずっとだけど。毎戦序盤はいい位置につけて優勝を期待するんですけどなかなか結果につながらない。ヒュンダイってどのドライバーも1年〜数年のスランプに陥るチームだから来年は復活できるかな。

で、その不調を乗り越えたパッドンは出場機会を得るたびに好走してついに今季初表彰台。なんとなくオーストラリアに似たような感じのコースだから相性が良かったんでしょうか?最初から最後まで一貫して落ち着いていてタナク選手に近い走りの印象を受けました。ソルドも良いドライバーだしこんな2人を交代で使うなんてちょっと勿体無い。

【動画】ヌービル選手の修復作業

 

Mスポーツ・フォードWRT(M-SPORT FORD World Rally Team)

マシン:フォード フィエスタ WRC(FORD FIESTA WRC)

テーム・スニネン選手/ミッコ・マルックラ選手:4位
セバスチャン・オジエ選手/ジュリアン・イングラシア選手:10位
エルフィン・エバンス選手/フィル・ミルズ選手:12位

オジエは今回もエバンスから順位を譲ってもらってなんとか1ポイントゲット。パワーステージではフルアタックするもミスが目立ってヌービルに届かず2番手タイムとなり良いところが全くないレースでした。ヌービルがリタイアして首位に立ったときは、まだ運がオジエに味方しているのか!と思ったんですが。

スニネンはしっかり完走で4位は嬉しいけれど、もしオジエがいたら彼も順位を譲る立場だったかもしれないと思うとちょっとやりきれない。

 

シトロエン・トタル・アブダビWRT(CITROËN TOTAL ABU DHABI World Rally Team)

マシン:シトロエン C3 WRC(Citroën C3 WRC)

カリッド・アルカシミ選手/クリス・パターソン選手:15位
マッズ・オストベルグ
選手/トシュテン・エリクセン選手:23位
クレイグ・ブリーン選手/スコット・マーチン選手:リタイア

ブリーンは本当にチャーミングな人。序盤で首位に立つとものすっごいご機嫌だったのに、ステージ5でパンクしてしまうと泣きそうな顔で戻ってきて英語なのかフランス語なのかよくわからない受け答えになっちゃいました。すっごいわかりやすい人なんですよね。その後は持ち直して順調に順位を戻していきましたがステージ11でマシンから煙が上がり、ステージ終了後に大炎上。どタイバーたちはすぐにマシンから離れて無事でしたがブリーンは頭を抱えて消火を見届けることしかできませんでした。次戦大丈夫かなぁ。

オストベルグも序盤はいい感じだったんですがサスペンションが壊れターボも壊れてボロボロ。最高位のアルカシミでさえ15位と全く振るいませんでした。ポテンシャルは高いマシンだと思いますが耐久力の低さという弱点を持っているのかもしれませんね。

【動画】ブリーン選手のマシン炎上(50秒あたりから)

 

おわりに

残り3戦で3人がチャンピオンシップを争う大混戦。これでトヨタが奪っちゃったりしたら一生忘れられない思い出になりそうです。

第11戦ラリーGB(グレート・ブリテン)は10月4日から開催です。お楽しみに!

 

【動画】ステージ1 – 4 ハイライト

 

【動画】ステージ5 – 7 ハイライト

 

【動画】ステージ8 – 10 ハイライト

 

【動画】ステージ11 – 13 ハイライト

 

【動画】ステージ14 – 17 ハイライト

 

【動画】ラリー・トルコ 総集編

 

画像の出典:TOYOTA GAZOO Racing