【F1 2018】第12戦ベルギーGP/人生はいつだってダウンヒル

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スタート直後のヘアピン、ラソース。全車無事に切り抜けて欲しいという願いも虚しくヒュルケンベルグのマシンからタイヤスモークが吹き上がり、破片と煙の中からアロンソがルクレールの頭上を飛び越えてランオフエリアに流れ込む。その少し前方で接触がありライコネンとリカルドもタイヤとウイングを失うほどの大きなダメージを負っている。

地上波からF1中継が消えた日から数えて何日ぶりでしょうか。久しぶりのF1リアルタイム観戦の滑り出しは、可能性の獣たちが次々と傷つき息絶えていく様子を見ながら、僕はあぁ、あぁと弱々しい悲鳴を漏らすばかりでした。

ヘルメットの上に乗り上げようとするオレンジ色のマシン。その荷重をしっかりと受け止めたヘイローがルクレールの頭部を完全に守ってその有用性を証明してヘイロー論争は終わりを告げ、その前方では後方の混乱をよそにオールージュを勇敢に駆け上がるトップ勢。ケメルストレートに入れば2番手からベッテルが並ぶ間も与えずハミルトンを抜き去り、さらには新生フォース・インディアのオコンとペレスがトップ2台の両翼に並びかける。フォーワイドのストレートエンドでペレスがオコンと順位を入れ替える。

おいおいどうなっちゃうんだよこれ、そんな心配は無用とばかりに4人のドライバーは一瞬で美しく隊列を整えてしまうのでした。

スタートからここまでわずか35秒、レースを大局で見れば長い競技時間の中で最大のドラマはここまでだったように思います。コース最高地点のレコーム、マルメディを過ぎて下りセクションに入っていくと、あとは水が低い方に流れるがごとく自然に、それぞれの力の法則に従っていくのみ。ボッタスみたいに後方から気持ちよくオーバーテイクを繰り返して順位を上げる例外もいたりタイヤ戦略の違いによる多少の順位のゆらぎもあったけど、結局は落ち着くべき場所に落ち着いていきました。

F1にドラマを見出すのはいつだって傍観者で、起承転結なんてお決まりなテンプレートは存在しないし1分も経たずに大勢が判明する今回みたいな展開だってあり得るわけで、あとは同じコースを残り43周走るのか~なんて思う人もいるのかもしれません。

 

でも、そんなときだからこそチームを背負った男たちの強い思いが見えてくるのです。

たとえばペレス。文字通りチームを消滅の危機から救った英雄は、完全に失ってしまったコンストラクターズポイントをもう一度チームにもたらそうと気合を入れます。そしてオコンはチーム存続が自身の来シーズンを不確かなものにしたことなどおくびにも出さす前を目指して走り続けます。予選Q3で最終コーナーを立ち上がると左右に暴れるリアをねじ伏せて(実際は空力のおかげかもしれませんが)コントロールラインを通過、ペレスを上回るタイムで3番手グリッドを獲得し新生フォース・インディアが2列目を独占しました。

本戦ではフェルスタッペン、ボッタスに抜かれトップ3との差は大きかったですが、堂々の5、6位フィニッシュで新しいチームに新しいコンストラクターズポイントを持って帰ってきれくれました。外から見ていると破産申請とか買い手がつかないんじゃ?とか色々言われていましたが、この結果を見るとエンジニアさんらチームに関わっている人たちは誰一人として何一つ諦めることなくただ勝利を目指していつも通り、いやいつも以上に気合の入った仕事をしているんだって伝わってきます。放送的には5番手、6番手の順位のままずっと走り続けていただけに見えたかもしれませんが、もし僕がフォース・インディアのエンジニアだったらあの戦いぶりに間違いなく号泣してたと思います。

 

人生なんて生まれた瞬間から落ちていく下り坂のようなものかもしれません。まるでスパ・フランコルシャンサーキットの長い長い下りセクションみたいな。でも、きっついシケインとヘアピンを抜けた先にはオールージュが待っていて、坂道を駆け上がった場所には大きなチャンスが待っている。

そんな風に希望を捨てず走り続ける勇気を与える。そこにもF1が存続する意義があるのかもしれませんね。

 

他のドライバーもどんなこと考えているんだろう、あのチームは何を目指しているんだろうと派手な駆け引きばかりじゃなく目には見えない戦いを想像し始めると退屈そうなレースも魔法の時間に早変わり。知らないうちにすっかりF1に再び魅せられていました。

 

でもレース後のインタビューでのハミルトンはちょっとヒドい。フォラーリにはトリックがあるのかもしれないね、なんて公の場で言うのは止めて欲しいなぁ。頑張って良いマシンに仕上げてきたメカニックたちに失礼じゃん。まぁ誰も相手にしていなかったけど。