8月16日からWRC(世界ラリー選手権)の2018年シーズン第9戦ラリー・ドイチェランドが開催されました。苦戦するチャンピオンシップリーダーたち、そして表彰台を目前に次々と脱落者が出るという展開になりました。
過酷な環境でのサバイバルレース、感想を書いていきます。
【WRC2018】世界ラリー選手権について簡単に説明します(その1)
【WRC2018】世界ラリー選手権について簡単に説明します(その2)
誰一人寄せ付けず
肥沃な大地に広がるぶどう畑、そのわずかな隙間を縫うように敷かれたアスファルトの路面に、風の音に似た小気味良いスキール音が鳴り響く。グラベルコースかと疑うほどのコースに入れば激しい振動が上下に全身を揺さぶる。軍事演習上バウムホルダーでは荒いコンクリートの路面がゴリゴリとタイヤを削る。
グラベルに比べ大きくインチアップしたホイールにギリギリまで落とした車高。クイックな挙動でマシンはターンを決めては加速する。その繰り返しがライバルたちとの大きな差を生む。オフィシャルパートナーになった「Asahi KASEI」の青地のロゴがいたる所に飾られ目を奪う。
無事に最終ステージまでたどり着いたWRCドライバーはほとんどいなかった。いや、ただ1人と言っても良いのかもしれない。最終日の朝には2位のソルド、3位のラトバラが脱落。繰り上がって2位に届いたヌービルでさえ小さなマシントラブルなどで苦しんだ。
誰よりも速く、誰よりもミスのない走りを見せるタナクに叶う者など1人もいなかった。
パワーステージ、SS18。オジエは予想通りフルアタックを決行、暫定トップだったブリーンを上回り後続を待つ。パワーステージにめっぽう強いラッピが追い上げるも届かずオジエの4秒遅れ。いよいよライバルのヌービルが出走するが、彼は無理をせず2位表彰台を確実なものとする。
いよいよ最終走者、タナクが登場する。優勝を取りこぼすリスクを背負ってまでアタックする必要はない。しかし、彼なら。
スプリット1では0.6秒遅れたものの、スプリット2では0.4秒オジエを上回る。6速160kmからジャンクションめがけ1速30kmまで一気の急減速、無駄のないターンから再度加速する。まるで気負いを感じさせず、周囲に並ぶ巨大な風車のゆったりとした回転のように自然に景色が流れていく。最後はオジエに0.1秒遅れたが、それでもタナクは最後まで彼らしい妥協のない走りで優勝を飾った。2連勝。たったの2戦で59ポイントを手に入れ優勝候補に再度名乗りを上げた。
トヨタ・ガズー・レーシングWRT(TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team)
マシン:トヨタ ヤリスWRC
オット・タナク選手/マルティン・ヤルベオヤ選手:優勝
エサペッカ・ラッピ選手/ヤンネ・フェルム 選手:3位
ヤリ‐マティ・ラトバラ選手/ミーカ・アンティラ選手:リタイア
3台ともに上位に位置し今度こそは全車無事にフィニッシュできるのを期待していたのですが、そうはいきませんえした。しかもドライバーのミスではなくマシントラブルという悲しい結末を迎えたのはラトバラさん。今季彼が本気で気持ちよさそうに走っているところをまだ見ていないような気がします。
その代わりに、リズムにも乗れずなぜ遅いのか自分でもわからず首を傾げていたラッピが表彰台に上がってしまうのがラリーの面白いところでもありますけど。
今回のタナクを見ていると、フォルクスワーゲン時代に圧倒的強さを誇っていたオジエの走りを思い出しました。レース前半でしっかりしたタイムを出して後続とのマージンを取り、タイム差を利用してレースをコントロールし、ミスで消えていくライバルたちを置き去りにした上パワーステージではフルアタックでポイントを手に入れる。
セッティングを変えながら後半に向けて調子を上げられるドライバーは多いけど、スタート直後からきっちり走れるスキルを持っているのはオジエ、ヌービル、タナクくらいな感じがするので、優勝候補争いに加わるのも必然なのでしょう。
ヒュンダイ・シェル・モービスWRT(Hyundai Shell Mobis World Rally Team)
マシン:ヒュンダイ i20 クーペ WRC((HYUNDAI i20 COUPE WRC)
ティエリー・ヌービル選手/ニコラ・ジルソウル選手:2位
アンドレアス・ミケルセン選手/アンダース・イェーガー選手:6位
ダニ・ソルド選手/カルロス・デル・バリオ選手:リタイア
金曜からギアボックのトラブルに苦しみ、前半はアンダーステアやマシンのスタビリティに問題を抱え、自分の力を思う存分に出し切れなかったヌービル。しかしソルド、ラトバラと前を走るライバルたちが最終日に次々と消え終わってみれ約40秒近い差をつけられながらも2位フィニッシュと、想像以上の結果に繋がりました。
レースは最後まで走ってみないとわからないものです。これでパワーステージの1ポイントと合わせ19ポイントを獲得、パワーステージで5ポイントを獲得したオジエは17ポイントで、わずか2ポイントながら引き離すことができました。前半はリズムを掴めず、後半はパンクでタイムロスしたオジエよりも上の順位だったこともあり、無理のない確実な走りに徹して見た目的には大人しめでしたが、おかげでミスなく走れて良い結果になったのかもしれません。
ターマック巧者のソルドはヌービルよりもずっと速いタイムで走行を続けていましたが、最終日に大クラッシュでリタイア。実はこの人の方が表彰台に乘って欲しかったんですけど。
ミケルセン選手は冴えない走りするようになってしまいましたね。まぁヒュンダイは必ず誰か調子悪い人がいるので納得なんですが。調子良くなって大味な走りになるってほど走れてないし、すっごいミスするわけでもないし、去年のパッドンみたいだ。
Mスポーツ・フォードWRT(M-SPORT FORD World Rally Team)
マシン:フォード フィエスタ WRC(FORD FIESTA WRC)
セバスチャン・オジエ選手/ジュリアン・イングラシア選手:4位
エルフィン・エバンス選手/フィル・ミルズ選手:5位
テーム・スニネン選手/ミッコ・マルックラ選手:25位
一時はパンクで9位まで順位を落としながら上位陣のリタイヤもあって急浮上。9位と4位では10ポイントも違います。シーズン最終盤でこの10ポイントが重要な意味を持つことになるのでしょうか。
ですがオジエが2人のドライバーと戦うことになるなんて、なんて運命のいたずらでしょう。フォルクスワーゲン時代なら考えられませんでした。ここまで互角の勝負になるのはシトロエン時代のチームメイト、セバスチャン・ローブ以来ですかね。なんか本人もそろそろモチベーション落ちてるみたいですが、敗れるにしても最後まで本気で戦わないと次のキャリアが狭くなっちゃいますよ~。
前回のチームオーダーがあってからエバンス、スニネンに全然興味持てなくなってしまいました。ラリーGBあたりでは頑張ってくれるかなぁ。
シトロエン・トタル・アブダビWRT(CITROËN TOTAL ABU DHABI World Rally Team)
マシン:シトロエン C3 WRC(Citroën C3 WRC)
クレイグ・ブリーン選手/スコット・マーチン選手:7位
オストベルグ選手/トシュテン・エリクセン選手:リタイア
シェイクダウンではスピンしてしまい先行きが心配されたオストベルグはエンジンパワーが出ないトラブルを抱え、それでも慎重な走りに徹して下位ながら入賞圏内に入っていました。シトロエンC3で久しぶりのターマック、完走できるだけでも十分に評価されるところなのにまさかの最終日にコースオフでリタイア。まだまだ安泰のエースドライバーとしては認めてもらえなそう。
同じマシンなら経験の多いブリーンが今回は上でした。後半になって調子を上げ7位入賞とパワーステージの2ポイントを獲得。ここまでのドライバーズポイントでオストベルグに1ポイント差とほぼ互角の戦いです。
本当ならもっと上位で戦ってほしいのですが、そのためにも来季のシートを早く確定してもらいたいですね。スポット参戦枠はもうやめて、せめてこの2人だけは全戦走らせてあげて欲しい。
おわりに
WRC+のハイライトでは東京から観戦に行った日本人カップルの姿も見られました。来年はラリーがもっと身近になるのかな?なるといいな。
今シーズンも残り4戦、いよいよ後半戦に入ります。チャンピオン争いは2人から3人に増えここからヒートアップの予感!トヨタ念願のチャンピオン獲得にも期待が膨らみます。
第10戦トルコは9月13日から開催です。お楽しみに!
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【動画】ステージ1 – 4 ハイライト
【動画】ステージ5 – 7 ハイライト
【動画】ステージ8 – 11 ハイライト
【動画】ステージ12 – 15 ハイライト
【動画】ステージ16 – 18 ハイライト
画像の出典:TOYOTA GAZOO Racing