【映画感想】この世界の片隅に/戦争の足音はいつだって聞こえている

この世界の片隅に

終戦記念日。

この日にしようと決めていた『この世界の片隅に』自宅にて再度鑑賞。

初めての戦争の記憶は、曽祖父のお葬式のとき。兵士として戦地に赴いた曽祖父は敵襲を受け、銃弾と爆発と炎の中をかいくぐって川に飛び込み、水面から頭だけを出して逃げ延びてなんとか生還できたのだと祖母が話してくれたのをかすかに覚えてる。

その場所も、いつのことか知らないけれど、まだ幼かった僕は戦争はどうやらとても恐ろしいものらしいとしか考えることができなかった。

 

初めて戦争に触れたのは、小学生のとき。学校の資料室の隅にあった箱の中には薄汚れた瓦礫が収められていた。僕と友人は別に驚くでもなく無造作に手に取り、軽く眺めてから元の場所に戻した。

しばらくして体育館で戦争映画の上映があった。戦争の悲惨さ、広島に原爆が落ちたときの映像、それからの日本の復興。確かに戦争は怖い。だけど映画は退屈だった。でも途中に原爆被害者のインタビューがあって、人間が壁に染みだけを残して消えた話を聞いて、僕は自分の手を見つめた。声を上げそうになった。

資料室のあの箱には広島からと書かれていた。瓦礫の裏面は半分だけ濡れたように色が濃い染みが広がっていた。もしかしてあれば誰かの跡だったんじゃないか?指先から死が伝わってくる気がして急に怖くなった。

後になって考えてみると、爆心地から持ってきたのかもわからないし、そんな無造作な扱いをしているのもおかしいので、ただの壊れた建物の欠片だったのかもしれない。でも、あのとき感じた戦争の手触りは今も残っている。

 

初めて戦争の隣に立ったのは、カンボジアに行ったとき。名所を一通り巡った後、見せたいところがあると言われて現地ガイドのバイクで出発。アンコール・ワットからもそれほど遠くないのに着いた場所には観光客は1人もおらず、ひっそりとしていた。バイクを降り、ガイドには後ろをついて来いと言われ細い砂利道を歩ていくと、遺跡の入り口があった。タ・プローム遺跡。そのすぐ左には地雷撤去中の看板。当時はまだ安全な場所ではなかった。

長い時間をかけてガジュマルの木に侵食されていく人間の創造物。もはや芸術性すら感じるその光景はたしかに圧倒的だった。でもそれ以上に、ここにたどり着く途中にはかつて無数の地雷が埋まっており、目の前にある遺跡の壁の向こうには今も足元にひっそりと隠されていると思うと、どうしても緊張してしまう。

トイレに行きたくなって、ガイドと2人で遺跡の裏に回り大自然の中で用を足す。実はこの辺もまだ危ないのだと無防備な体制になってから言われる。例えば今、片足を上げただけで人生が終わってしまうかもしれない。人間にとって戦争とは普段より死に近い場所にいることだ。この場所がそうだったように。

遺跡の中央部にはもう戻らなかった。崩れて横たわる遺跡の壁に腰を掛けて、僕らは森の方に目を向けて話をした。多くの人がこの地で亡くなったらしい。もしかしたら、この足元に倒れていた人もいたかもしれない。戦争といえば何十年も前の話だと思っていたけれど、日本がバブル景気に湧いていた頃もカンボジアでは内戦が続いていたのだ。それほど昔じゃない。

どうして僕のガイドがこの場所に連れてきてくれたのか、その理由は教えてくれなかった。僕も聞き出そうとはしなかった。キリング・フィールドは見せたくないと言ったりガイド仲間から距離を置いていたりと、なんとなく過去を背負った男性だった。でも家族のことは楽しそうに話してくれた。借金してバイクを買ったし、これから3人の子供を育てていためにたくさん稼がないと、と言っていた誇らしげな顔を思い出す。

 

そして今日。73回目の終戦記念日に『この世界の片隅に』という映画を観ました。行き場のない感情が渦を巻いて、しばらく立ち直れないってわかってるのに。

正直に言うと、この映画に出会うまで日本の戦争はカンボジアよりも遠くにあったような気がします。呉のことを知らなくて(ごめんなさい広島さえはっきりと場所をわかっていませんでした)作品のあらすじもほとんど知らないままに劇場に足を運んで、日本の戦争とこの身体がようやく繋がったように思えました。

子供の頃に触れた瓦礫の感触。カンボジアの大地ですぐ隣に広がっていた地雷原。運良く平和の中で生きて来られた僕がわずかに知っている死の匂いが、この映画からは感じられます。戦争はいつだってすぐそばにある。それを思い出して背筋を伸ばし、もう一度最後まで見届けました。まるで儀式みたいに。

 

今日は僕の誕生日でもあって、時期が時期だけに祝ってもらえないことが悲しくて嫌いな日だったんだけど(誕生日のお祝いは7月の弟の誕生日に一緒にするのが我が家のルールでした)今は何か意味があるんじゃないかなって気がします。まぁとりあえず今日は映画観てるだけですけど。

 

(C)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会