【映画感想】かぞくへ/観る人が心を重ねる物語(ネタバレなし)

かぞくへ

2月24日から渋谷ユーロスペースさんで『かぞくへ』の上映が始まりました。作品を知ってピンと来てから楽しみにしていた作品だったので、公開初日に劇場に足を運び超満員の中で観賞してきました。

観る人によっていろいろな感想が生まれると思います。自分の場合は主要人物に過去の人生が重なって見える瞬間がありましたので、その辺を中心に感想を書きました。

あらすじ

長崎・五島列島の養護施設で育ち、今はボクシングジムのトレーナーとして生きる旭(松浦 慎一郎 )は、上京してから出会った佳織(遠藤 祐美)との結婚を間近に控えていました。

幼い日々を共に過ごした唯一無二の親友、洋人(梅田 誠弘)に式のスピーチをお願いし、幸せいっぱいの旭。ある日、彼の元にとある商談が舞い込み、結婚後も経済的に苦しい漁師の仕事を続けている洋人に紹介することになりました。

これでみんなが幸せになれる。そう思っていた矢先、洋人に紹介した話が詐欺であったことが発覚します。洋人を不幸にした自分だけが幸せになるなんて許されない。佳織にも心配をかけたくない。解決しようと奔走すればするほど親友とも恋人ともすれ違いが生まれ、旭の心は揺れ動くのです。

大切な人だからこそ話せない本当の気持ち。焦れば焦るほど離れていく心の距離。苦しみの果で旭がたどり着いた答えとは―。

 

感想

本気の人が作った本気の映画

映画全体の感想を正直に言うと、とっても重かったです。強い圧力に押しつぶされそうな、でっかい拳でガッツンガッツン殴られているような。そして緩んだ部分が1か所もない工芸品みたいな映画だと感じました。

派手な演出など全然なくて物語の抑揚も抑え気味で淡々としているのに、心を鷲掴みにして激しく揺さぶってきます。ホラー映画(最初から最後まで超怖いやつ)を観た後に近い安堵感すらありました。

なぜだろうと振り返ってみると、すごく主人公たちが近いんです。静かな呼吸も声にならない慟哭も全部聞こえて来るくらいすぐ傍に感じていたり、ときには自分と重なってしまったり。だから彼らが走ればこっちまで疲れるし落ち込めば生きるのを止めたくなるくらいヘコむ。いつも映画を観ると感情移入しがちなのですが、こんなに入り込んでしまったことは余りなかったですねぇ。

それに旭と洋人が小さい頃に五島で暮らしていた頃の姿まで浮かんでくるから不思議です。ストーリーは人生のほんの一瞬を切り取っただけなのに、言葉や表情の端々に込められた情報がちゃんと生きていました。

あとインディペンデント映画にありがちな甘い演出でふと現実に戻される瞬間も全く無く、最後まで感情を持っていかれたままだったのも印象的。そんな一瞬も嫌いじゃないんですけど、予算が潤沢ではない映画製作の中でここまできっちりと作り込めるものなんだなぁと感心してしまいました。

全ての画に意味がありそうに感じられる力もすごい。例えば佳織さんの着てるパーカーの片方だけ結び目がほどけてるのも何か意味があるのかな?とか気になってしまいます。何度か観返してみるのも楽しいかもしれませんね。

 

不器用にもがく旭の姿が胸を打つ

ここからは主要人物に焦点を当てます。松浦さんが演じる旭はとっても真面目で、ちょっと優柔不断なところがあるボクシングトレーナー。施設で家族を知らず育ったせいか人間関係にドライな部分も持っています。ボクシングジムの同僚もいるけど結婚式に招待したいのは洋人のみとかね(すぐに洋人の奥さんのことも思い出すけど)。

自分の話になりますが、うちの家族は子供の頃に突然母が家を去り、危ういながらもいつまでも続くと思っていた家族の形があっさり消えてしまいました。父方の祖父母がいたし、あまり顔を合わせなかったけど父もいたけど、その頃の僕にとって家族とは弟だけでした。親族や友人もいたけれど、弟という唯一の家族の存在は絶対的なもので、他の人と一緒にすることはありませんでした。だから旭の気持ちはよくわかります。旭が持つ洋人に対する信頼は、きっと僕たち兄弟の場合と似ていたのだと思います。

そんな旭だから、簡単には人に頼ることができません。話したら心配かけてしまうとひとりで考え込んだり、即決できない性格のせいで余計に事態を悪化させてしまったりもします。第三者である観客の視点から見れば素直に相談すればいいじゃんって思うんだろうけど。でも怖いよね。話せばわかるかもって思っていたとしても。それすごくわかる。

そのくせ大切な人たちに対しての思いは強く、トラブルに巻き込まれたときには全力で思い悩みます。誰も傷つけたくないという優しさが誰かを傷つけてしまう。本当はそうじゃないのにって声が何度も聞こえる。そんな不器用にもがく主人公は、まるで幽体離脱して自分自身を俯瞰的視点で見ているようでもありました。

 

家族の呪縛に囚われる佳織の姿が切ない

遠藤さんが演じる旭の婚約者、佳織さんは愛する人との結婚を願い、ささやか幸せを手に入れようとしています。しかし血の繋がった家族との問題を抱えていて、旭とは対象的に家族がある者としての苦悩が描かれています。

家族とは1人では生きられないような弱い人間への救いであり、他者の人生を強制的に背負わせてしまう呪いでもあるのだと、この映画は語っています。より強く見せつけられるのは負の部分でした。

旭との結婚に反対する母親との確執。結婚する2人が幸せなら気にしなくてもいいじゃないなんてほのめかしつつも、やっぱり祝福して欲しいという気持ちも捨てきれない。その気持ちが理解できました。

母が去ってしまった後の我が家は、父の再婚が決まり僕たち兄弟は母に引き取られることになりました。その母も数年後に再婚し、僕は逃げるように関東に就職して家を離れました。それから数年が経ち結婚したい相手ができたとき、喜んで欲しいと思ったのはやはり母でした。父でした。いろいろあったけれど、やっぱり家族を捨てきることはできませんでした。

その母が一度だけ人生初の東京観光にやって来たことがあって、そのとき彼女を紹介してあげられていたら、どんな笑顔を見せてくれたのかなとか考えてしまいました。一緒に東京や横浜の街を歩いた1ヶ月後に母は他界し、その後彼女も去ってしまったので、二度と叶わないけれど。

少し話が逸れてしまいましたが、きっと佳織さんも家族という呪縛からは離れられない人なんだろうなと思います。胸が苦しくなる祖母の笑顔も、苦悩に耐えながら暮らしている妹のことも含めて背負ってしまった人だから。彼女が選んだ選択は、きっと優しさなんだと思う。

 

それでも人は家族になる

梅田さんが演じる旭の親友、洋人は見た目ちょっと怖いけど心優しい役柄です。旭に紹介された仕事で騙されたと知っても旭を責めようとしない大人な心も持っています。でも気づいたら身体が動いてしまう超行動派。その辺りは旭と正反対で、小さい頃から2人がかみ合うのも妙に納得できました。旭がウジウジしてると洋人が「ホラ、行くで」とか言って引っ張っていってくれるんだ、きっと。

彼の姿を見ていると、ふと1枚の写真を思い出しました。

母が新しい父親と再婚し、家を建てた直後のことでした。真新しい白い壁とキラキラした玄関の扉をバックに撮ったその写真は、家族四人が一緒に写った最初で最後の写真になりました。

その父の評定が、真面目そうで頑固そうで強張ってて洋人と容貌とは全然違うんですけど(梅田さんみたいにカッコよくないし)どこか似ているような気がして。当時はこの人カッタい顔してるな〜としか思ってなかったんですけど、今思えば新しい家族を背負う覚悟を持った男の顔なのかもしれません。

旭と佳織よりも先に洋人は結婚していました。奥さんの両親に頭を下げたりしながら彼は家族を守るために生きてきたのです。その力強さを感じて不意に父親の姿に重なりました。

家族との暮らしを知らない旭と、家族という苦悩を知る佳織さん。この二人の行く末がメインのストーリーとして存在し、そこに洋人という存在をどうして加えたのか、答えがわかるのは最後の最後になります。『かぞくへ』というタイトルに込められた意味も含め、家族って何なのかが見えました。きっと人によって異なると思いますので、ぜひご自身の目でその答えを見つけてもらえたらなと思います。そして、できれば教えてほしいです!

 

おわりに

軽めで楽しいエンターテイメント映画を求めている人に勧めるのは難しいけれど、重厚で喜怒哀楽が揃った素晴らしい作品でした。いや〜、応援してきて良かった!

春本 雄二郎監督ともお話ができ、あぁそこまで考えた上で撮っているんだと知ってますます応援したくなりました。舞い上がってしまって妹さん役の下垣 まみさんにお姉さんの感想を言ってしまったり(ごめんなさい!)と恥ずかしいこともありましたが、こうやってさっきまでスクリーンの中にいた人たちに会ってお話ができるのも日本のインディペンデント映画らくして温かくて大好きです。皆さん数年後には会えないくらいビッグな人たちになってるかもしれないので今がチャンスですよ〜!

劇場を出た後は初めて会ったばかりの女性と意気投合してワーワー言いながら駅まで一緒に帰りました。人をつなげる力も凄いんです。

映画『かぞくへ』は渋谷ユーロスペースさんで上映中です。今後は3月10日の横浜シネマリンさんを皮切りに名古屋シネマテークさん、大阪シネ・ヌーヴォさん、京都出町座さん、神戸元町映画館さん、宇都宮ヒカリ座さん、シネマテークたかさきさんへと続々全国拡大予定!

生きるって何だろう、家族って、人間って何だろうと人生の中で真剣に迷ったことがある人には、心に届くものが必ずあります。

お近くの劇場で公開されたときにはぜひ足を運んでみてくださいね。

(C)「かぞくへ」製作委員会