2017年7月30日(日)にカナダのモントリオールでフォーミュラE 2016-2017シーズンの第12戦(最終戦)が開催されました。
前日になって選手権の首位が入れ替わる事態になり、今シーズンも優勝は最終戦までもつれ込みました。その結果がいよいよ決まった一戦、レースの模様と感想をお届けします。
ルールについては以下の記事で説明していますので、事前に見ておくことをオススメします。
【フォーミュラE】シーズン3(2016-2017)のルールを簡単に説明します
コース:
第12戦の舞台となるのは、前日のダブルヘッダー第1戦と同じモントリオールの市街地サーキット。周回数は2周増えて37周となります。
スタート地点からの路面はデコボコで跳ねやすく、フルブレーキングからの1コーナーはタイトな難所となっていて、昨日のレースでもミスをするドライバーが続出した地点でした。
2コーナーから4コーナーまではほぼ直角のコーナーが続き、5コーナーはヘアピンから緩いカーブの高速区間へとつながる重要なポイントです。
6コーナーからは右、左、右の連続コーナー。リズムに乗ったところで再度ヘアピンが待ち構えていて、ここは右への急旋回直前に左に曲がっている複合コーナー。出口付近もドライバーの目から見ると絞り込むように狭くなっているため、コース取りが難しいポイントです。
その先のバスストップシケインはクリアする際の速度はシーズン中でも1、2を争う高速シケイン。ウォールに触れようものなら大事故必死。コースの最後に仕掛けられた最大の罠です。
1周は約2.5km、快晴の空の下、甲高いモーター音が街中に響き渡ります。
【動画】ハイスピードトラックガイド
予選:魔の1コーナー
予選
第1グループからは追う立場になってしまった注目のセバスチャン・ブエミ選手(ルノーe.ダムス)が出走します。なんとしてもポールポジションが取って3ポイントを手にしたいところ。
タイヤを温め、コースの状態を確かめ、いざタイムアタック!と思ったら1コーナーでまさかのミス!左フロントタイヤをロックさせ大きく外に膨らんでしまいました。なんとか挽回しようとしますが5台中3位の成績で、暫定トップのホセ・マリア・ロペス選手(DSヴァージン レーシング)もおなじく1コーナー出口で壁にぶつかりそうになるミスがあってのタイムなので全体的に奮いませんでした。
第2グループから登場のフェリックス・ローゼンクヴィスト選手(マヒンドラ レーシング)、ジャン-エリック・ベルニュ選手(テチーター)らがあっさりトップタイムを更新、この時点でブエミ選手は7位と胃が痛くなる展開になってきました。ここでもミッチ・エバンス選手(パナソニック ジャガーレーシング)が1コーナーでタイヤをロックさせてしまいます。まさに魔の1コーナー。
第3グループでもアントニオ・ダ・コスタ選手(アンドレッティ フォーミュラE)が1コーナーでスライドしてミス。そのまま最後までラリーみたいなドリフト走行してましたが、タイムは良くありません。ネルソン・ピケJr選手(ネクストEVニオ)、ステファン・サラザン選手( テチーター)らがトップ5に食い込みいよいよ最終組を迎えます。
最終第4グループは誰が首位でもおかしくない激戦地。予選スタートと同時に各マシンがコースに押しかけます。
まずはニコラス・プロスト選手(ルノーe.ダムス)がローゼンクヴィスト選手とベルニュ選手に続く3番手に。すぐさまその順位にルーカス・ディ・グラッシ選手(ABTシェフラー アウディスポーツ)とチームメイトの ダニエル・アプト選手が並んで飛び込みます。ディ・グラッシ選手もあやうく1コーナーで終わりかけましたがなんとか踏みとどまりました。
これで決まりかと思いきや、サム・バード選手(DSヴァージン レーシング)が圧巻の走りでトップタイムをマーク!最後の走者ハイドフェルド選手(マヒンドラ レーシング)も好タイムで3番手に飛び込み大混戦に。
バード選手、ローゼンクヴィスト選手とベルニュ選手、ハイドフェルド選手の後ろにディ・グラッシ選手がギリギリ入り、スーパーポールに進出です。
スーパーポール
スーパーポールの先頭はディ・グラッシ選手から。1コーナーでまたしても外に膨らみ、今度は完全なタイムロス。5番手からのスタートが決まりました。ハイドフェルド選手はミスのない走行で暫定1位へ。ベルニュ選手、ローゼンクヴィスト選手らは更にタイトな走りで次々と首位が入れ替わります。
最後に登場したのはバード選手。1コーナーを完璧にクリアし、中間計測地点ではこれまでのトップタイムを記録。これはいけるか?そう思った瞬間、連続コーナーでまさかの失速!わずかに首位には届かず2位フィニッシュとなりました。
どのマシンもブレーキングに苦しんでいたようです。チームの無線もタイヤの内圧に気をつけろ、みたいなこと言ってたので気温が上がってコンディションの変化が大きくなっていたのかもしれません。
【動画】フリープラクティス&予選ハイライト
決勝:チャンピオンを掴む意地
前半
いよいよ最終戦のレースがスタートすると、さっそく1コーナーからアクシデント発生です。なんとステファン・サラザン選手( テチーター)が、横に並んでいたアプト選手のマシンに引っかかってしまいコーナーの真ん中で180度スピン。すっごい邪魔な位置でストップしてしまい後続が大混乱に陥りました。最後はアダム・キャロル選手(パナソニック ジャガーレーシング)とも絡んで、向かい合ったまま路上で井戸端会議してるオバチャンたちみたいな異次元空間を作り出してしまいました。
なんとしてもポイントが欲しいブエミ選手はこの混乱で接触を受け右リアのタイヤカバーを破損。ずーっとブラブラしたままいつ落ちるかわからない状態になり、3週目にブラックフラッグ&オレンジディスク(ピットインしてパーツ修理しなくてはならない)が降られてしまいピットに向かいます。しかしよく見るとパーツはすでに外れており全く無駄なピットイン。これで最後尾まで後退し、チャンピオンシップタイトルは絶望的に。ブエミ選手の悲しい絶叫が無線から空しく響くのでした・・・。
一方先頭集団ではポールポジションのローゼンクヴィスト選手がバード選手をけん制しつつ1コーナーに飛び込み首位をキープ。バード選手は3番手スタートのベルニュ選手に抜かれ3位に後退。6周目にはハイドフェルド選手にも抜かれ、勢いを失ってしまいます。
ディ・グラッシ選手は7番手に順位を落としますが、ブエミ選手が遥か後方にいるため無理する必要はなくなりました。
10周目を過ぎるとローゼンクヴィスト選手とベルニュ選手のトップ争いがヒートアップ。同じペースで走っているのにベルニュ選手の方が常に2%ほどバッテリー残量が多いので、ピットイン直前あたりに一気に仕掛ける作戦でしょうか。
その後ろではようやく調子を取り戻したバード選手がハイドフェルド選手に肉薄。その後方も差が一気に縮まりホセ・マリア・ロペス選手(DSヴァージン レーシング)、トム・ディルマン選手(ヴェンチュリー フォーミュラE)、そしてディ・グラッシ選手、アプト選手までの隊列が出来上がります。
13周目、バード選手が目の覚めるようなオーバーテイクで3位を奪取。さっきまでの寝ぼけた走りは何だったの?チームメイトのロペス選手も同じように攻略しますが、全体的にペースが落ち着いてしまい膠着状態へ。
17周目あたりからピットインへ向かうマシンが出始め、首位のローゼンクヴィスト選手も19周目にピットイン。バッテリーに余裕のあるベルニュ選手はここでコースに留まり猛プッシュ!この作戦が後半どう活きるでしょうか。
後半
全車ピットアウトし隊列が整ってみると、上位陣の顔ぶれは変わりませんでしたが、ギリギリまで粘ったベルニュ選手、ロペス選手らのバッテリー残量が他車より7%ほど多く、ハードに前を攻められる状態になっています。
ディ・グラッシ選手、アプト選手の前には ジェローム・ダンブロシオ選手(ファラデーフューチャー ドラゴンレーシング)がジャンプアップ。そのすぐ後ろにはオープニングラップで辱めを受けたサラザン選手が追いついてきました。
残り10周付近になると、予想通りバッテリーに余裕のあるベルニュ選手、ロペス選手がチャージを開始。ベルニュ選手は約4秒あったローゼンクヴィスト選手とのタイム差を一気に詰め射程圏内に捉えます。ロペス選手も同様にバード選手に接近。仕留めるチャンスを伺います。
一度は9位まで落とした順位をジワリジワリと戻すのはディ・グラッシ選手。29周目には6位まで浮上。こういう冷静な彼は無敵ですね。動揺するとすぐ走りに出ちゃうけど。後方からの攻撃はアプト選手が抑え、優勝まで盤石の体制です。対するブエミ選手はいまだ15位。1ポイントすら取れない後方から抜け出すことができません。
そして同じ29周目にはついにベルニュ選手が首位を奪取。速いのになぜか無冠のクセモノドライバーが栄冠に向けてひた走ります。抜かれたローゼンクヴィスト選手は安全策を取り無理について行こうとはしませんでした。
そして最後のドラマはバード選手とロペス選手のチームメイト対決。クリーンな走りのバード選手は、接触上等のWTCC(世界ツーリングカー選手権)でチャンピオンを取ったロペス選手みたいな荒い走りの人はちょっと苦手。なんとか逃げ切ろうとしますが、31周目ついに捉えられ表彰台圏外へ転落。バッテリー残量もロペス選手の方が多かったので不利が重なってしまいました。
ロペス選手はこの後ローゼンクヴィスト選手を脅かす攻めを見せましたが上位陣の順位は37周目のファイナルラップまで変わらず、ベルニュ選手が初優勝、ローゼンクヴィスト選手、ロペス選手が2位、3位となりました。
ブエミ選手はロイック・デュバル選手(ファラデーフューチャー ドラゴンレーシング)やミッチ・エバンス選手(パナソニック ジャガーレーシング)らの混戦に乗じて11番手まで順位を上げるのが精いっぱいでした。
ディ・グラッシ選手は、ずっと支えてくれたチームメイトのアプト選手に順位を譲り7位フィニッシュ。これで年間総合優勝を決め、去年の雪辱を晴らしました。
第12戦モントリオール(カナダ)リザルト(テレビ朝日)
【動画】決勝ハイライト
【動画】決勝フル配信
感想
ディ・グラッシ選手は175ポイント、ブエミ選手は157ポイントと、その差は18。ブエミ選手は最低でも2位でフィニッシュしなければならないプレッシャーを背負ってのスタートでしたが、まさかのもらい事故で年間チャンピオンの座を失うというとても残念な結果に終わりました。
前日のレースでも落ち着きがなく、レース後にはポイントはく奪というペナルティまで受けてしまったので、精神的にも辛かったと思います。
チャンピオンは逃しましたが、今季はWEC(世界耐久選手権)の出走が優先し2戦を欠場、2度の失格と4レースを失ってもなお優勝前線に留まる強さ。最強であることは間違いありませんでした。
そのブエミ選手を最後の2戦で追い詰め、追い抜いたディ・グラッシ選手。モナコでやらかしたときはかなり心配しましたが、無事落ち着きを取り戻し栄冠を手に入れました。彼についてはまた改めて書きたいと思います。
でもこの試合で一番驚いたのがベルニュ選手の初優勝。もう何度も勝ってるような気がしてたのでビックリです。テチーターとしても最終戦で初勝利ということですが、全然そんな感じがしない強豪のオーラをまとっています。
マヒンドラも中盤以降常に2台とも優勝できそうな強さでしたし、ヴァージン勢も後半盛り返してきました。来年はルノー1強体制とはいかないようです。
おわりに
これでシーズン3が閉幕しました。シーズン4はどのような形で配信されるのか不明ですが、今季と同じように視聴できるようでしたら応援を続けていこうと思います。
新シーズンの開幕戦は12月2日、香港からスタートです。そんなに遠くないし一度は観戦に行ってみたい~。
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画像の出典:Formula E