ここまで4戦を終え、エースドライバーのラトバラ選手と共に想像以上の結果を出し続けているトヨタWRC(TOYOTA GAZOO Racing WRT)。
その好調の理由と、今後の課題について考えてみました。
好調の理由
1.ライバルたちも手探り状態
2017年シーズンからはレギュレーションが大幅に変更され、各チーム今までとはスペックが大きく異なるニューマシンでの参戦となりました。デビューイヤーとなったトヨタだけでなく、他のライバルたちも新しい車両でのバトルはゼロからのスタートとなり、経験値の少なさによって受けるハンデを最小限に抑えることができました。
2014年からハイブリッドターボエンジンへと変貌を遂げたF1に2015年から参戦し、1年の遅れによる大きな経験の差と課せられた様々なハンデに苦しめられたホンダとは違い、勝利の可能性を高めるための戦略が初期段階から組まれており、それが見事に功を奏しました。
2.ラトバラ選手の献身と躍進
昨年までのヤリ‐マティ・ラトバラ選手は、優勝かリタイアかというギャンブル的存在でした。しかし今期は優勝1回を含む4戦連続完走と抜群の安定感。チームにとって必要なのは優勝よりも完走だと理解してくれており、限界まで攻め込むよりマシンをフィニッシュラインまで持ち帰ることを優先しているんだなぁと感じます。
このことで優勝への強いプレッシャーから解放され、逆にリラックスしてレースに集中でき、良い結果につながっているのかもしれませんね。
ラトバラ選手の安定感の理由はマシンとの相性の良さもありそうです。昨年までのマシン、ポロR WRCはチームのエース、セバスチャン・オジエ選手が開発から関わり、ほぼ彼専用。無駄のない走りを極限まで突き詰めた、遊びの部分が全くない印象でした。
一方、ラトバラ選手のドライビングは、刻一刻と変化する路面やマシンの挙動を感じながら状況に応じてコントロールする幅のあるスタイル。フォルクスワーゲンチームに所属していた頃は手足を縛られながら運転しているような気分だったのではないでしょうか?
ヤリスWRCでは、理想にはまだ遠いのかもしれませんが、彼らしいダイナミックな走りが戻ってきたように見えます。
※ドライビングスタイルは個人的な印象です
3.チームの対応力
ここまでの戦いを見て、チームとしての対応力も見えてきました。ライバルチームがクラッシュやマシントラブルで次々と脱落していく中、ラトバラ選手は後半に向けて尻上がりでタイムが良くなっていくことが多いです。
初優勝となったスウェーデンでは最終日のステージ16から圧巻の3連続トップタイム、そしてツール・ド・コルスではラトバラ選手が苦手としているターマック(舗装路)で最終パワーステージ首位を飾り、初日6番手からジリジリと表彰台まであと1歩のところまで上がっていきました。
初日はどうもセットアップが決まらないようですが、最終日まで手を抜かず改善を続ける姿からは選手を支えるチームの対応力の高さが感じられます。
WRCでは競技中にマシンに手を加えられる時間も範囲も限られています。だから劇的な変化は起こりにくい。それなのに見違えるようにタイムが伸びていくんですから、ドライバーとメカニックたちとの情報共有もしっかりしている証拠ですし、ドライバーの要求に応えられるチームの力も、これまでの好成績を支えてくれています。
今後の課題
1.トップまではまだ遠い
チャンピオンシップ争いでは、首位のオジエ選手に次いで2位につけるラトバラ選手。しかし、成績ではなくタイム差を見ると、まだまだトップとの差が大きいことがわかります。
初戦モンテカルロでは見事2位表彰台を飾ったものの、1位との差は2分15秒差。スウェーデンでは30秒差をつけて勝利しましたが、メキシコでは4分40秒、ツール・ド・コルスでは1分10秒差と、優勝するにはあと1分以上のギャップを埋める努力が必要になります。
ライバルチームも安定を高め、速さを磨いていく中で、それを上回るペースを目指すのは並大抵のことではありません。
2.セットアップミスはもう許されない
2017年のシーズン開幕から、氷、雪、砂利道、舗装路と一通りの路面を経験しました。これからの戦いにおいて必要になるデータを手に入れ、活かしていく戦いが始まります。
イベント中に手探りでベストのセットアップを模索する時間はありません。むしろ初日からベストでなければ、勝てる可能性を失ってしまうことになります。
昨年までの王者オジエ選手はまだ調子を取り戻していませんが、今期最速と思われるヌービル選手やミーク選手が立て続けに優勝し、その実力を発揮し始めました。
この先も勝てるかどうかは、ドライバーの力だけでなく、チーム全体が優勝を目標にして戦えるかどうかにかかっています。
3.ハンニネン選手の経験値
そして、個人的に一番心配なのはハンニネン選手。トップクラスの速さは披露してくれるものの、やはり実戦経験の少なさからかリタイアが多くまだ満足な結果を出せていません。
ツール・ド・コルスのように、最初のステージでリタイアすると走行データも全くとれなくなり、その後のマシン開発にも影響が出てしまうのでライバルたちとの差も開くばかり。順位よりもまず完走を目指してもらいたいと思います。
数日間、誰よりも速く走ることに集中し続けるWRCのドライバーたちってやっぱりすごいですね。
おわりに
4月27からは第5戦ラリー・アルゼンチンが開催されます。ここまでの4戦で4チーム、4ドライバーが優勝する混戦となっていますが、次は誰が勝利するのでしょうか?楽しみです。
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(画像の出典:TOYOTA GAZOO Racing)