2月11日(木)から4日間にわたって開催された世界ラリー選手権(WRC)の2016年シーズン第2戦、ラリー・スウェーデン。前回の記事に続いて感想を交えながら結果を振り返ってみたいと思います。
世界ラリー選手権(WRC)2016 第2戦 ラリー・スウェーデンの結果と感想です(その1)
DAY3:ようやく舞い降りた白い雪
この日の行程は午前中にステージ10、12の2ステージ、午後は14、16、17の5ステージに短縮。最終日は2ステージしかないため、一番の勝負どころとなりました。
前日の午後から夜にかけて降り続いた雪のおかげで、ようやくスノーラリーらしくなってきた競技3日目。木々には雪化粧、観客はソリを引き、一面はクリスマスカードのような景色に変わりました。気温はマイナス4度どこの日も雪解けの心配はなし。スタート地点でも凍った路面の上には4センチほどの雪が積もり、空模様から更に降り積もると予想されます。
こういう展開になると苦しいのが1番走者となるフォルクスワーゲン・モータースポーツのセバスチャン・オジエ選手。雪かき役となり不利な状況ですが、窮地に立たされて本領を発揮します。激しい追い上げを見せるヒュンダイ・モータースポーツのヘイデン・パッドン選手に一時は8.8秒差まで詰め寄られますが、再度引き離してこの日の終わりには17.1秒差まで引き離して首位をキープしました。
パッドン選手の方もクレバーに2位堅守に方針転換し、後続とのタイムを意識した走りになります。3位のMスポーツWRT、マッズ・オストベルグ選手との差は42.3秒とひとまず安全圏。オストベルグ選手はここでプッシュできるような瞬発力が足りないのが弱点ですね。
この日のステージ12、16にはラリースウェーデン名物となったコリンズ・クレストとよばれるジャンプポイントが設定されていました。かつて伝説のドライバー、コリン・マクレー選手が華麗なジャンプを見せたことからこの名を付けられた場所です。
今までの記録は2015年にヒュンダイ・モータースポーツのティエリー・ヌービル選手が記録した44メートルでしたが、今年はなんと下位カテゴリのWRC2にエントリーしていたエイビン・ブリニルドセン選手が45メートルの大ジャンプを決め記録更新。6速シーケンシャルのフォード フィエスタR5と共に、5速ギア、約165キロの猛スピードで飛び立ったとか。元記録保持者になってしまったヌービル選手はガッカリのご様子です。
「ティエリー(ルービル選手)は、僕のフィエスタR5がそんなに速いなんて信じられないらしいんだ。そんなこというなら今度乗せてあげてもいいよ!」
Brynildsen claims new Colin’s Crest record(ブリニルドセン選手がコリンズ・クレスト新記録を樹立)
ステージ10-12 ダイジェスト
ステージ13-17 ダイジェスト
名物コリンズ・クレストの大ジャンプ
ステージ17 ラトバラ選手のオンボード映像
DAY4:蒸気機関車じゃないんだから!
競技4日目の気温はマイナス9度と低め、空には雲があるけれど青い空が覗くまずまずの天候。でも1ステージがキャンセルとなり1ステージのみの最終日となりました。
しかし最後はパワーステージ。ここまでの順位に関係なく、このステージの1位から3位には3、2、1ポイントが与えられます。リスクを取ってポイントを稼ぐか、順位キープを狙うか判断の分かれ目です。
そして最終日は前日までの順位のリバースオーダー。下位に低迷してしまった選手がここぞとばかりにアタックしていく中、MスポーツWRTのマッズ・オストベルグ選手は通常営業で堅実に7番手のタイム。ポイントは取れませんでしたが3位以上を確定させます。
続いてヒュンダイ・モータースポーツのヘイデン・パッドン選手。2位表彰台を意識してしまったのか、ステージ脇にあった郵便ポストに当たり(公道を走るのでこういう危険もあります)ラジエーターを損傷。クルマは水蒸気を上げつつもなんとかステージのフィニッシュラインを通過しました。
「人生の中でも最悪のステージだったよ!全然地に足がついてないみたいで、全然いつも通りのドライブができなかったんだ。で、コーナー内側にある木の郵便ポストみたいのに当たっちゃったんだ」
Paddon’s fears after Power Stage shocker(パッドン選手、パワーステージでの失態にヒヤヒヤ)
しかしWRCでは競技全体を通してのフィニッシュラインがあり、そこまで自力で走らなくてはなりません。どうやらラジエターから漏れた水をセレモニーでもらったシャンパンボトルで注ぎ足し、なんとか完走。この後無事に2位表彰台を確定させました。
最後はフォルクスワーゲン・モータースポーツのオジエ選手。こちらは気を抜けば逆に危ないと身をもって経験しています。猛然とアタックするオジエ選手は当然のごとくトップタイムを叩き出し、3ポイントをゲット。チームメイトのアンドレアス・ミケルセン選手が2ポイントを、アブダビ・トタルWRTのクリス・ミーク選手が1ポイントを手にしました。
ステージ21 ダイジェスト
最終順位
順位は以下の通りです。ペナルティなどにより最終順位は変動する可能性がありますので、確定順位はこちらでご確認ください。
順位 | 選手名 | チーム名 | 車種 | タイム |
1 | セバスチャン・オジエ選手 | Volkswagen Motorsport |
Volkswagen Polo R WRC
|
1:59:47.4 |
2 | ヘイデン・パッドン選手 | Hyundai Motorsport | Hyundai i20 WRC | +29.8 |
3 | マッズ・オストベルグ選手 | M‐Sport World Rally Team | Ford Fiesta RS WRC | +55.6 |
4 | アンドレアス・ミケルセン選手 | Volkswagen Motorsport II | Volkswagen Polo R WRC | +1:10.8 |
5 | オット・タナク選手 | DMACK World Rally Team | Ford Fiesta RS WRC | +1:50.7 |
6 | ダニ・ソルド選手 | Hyundai Motorsport N | Hyundai i20 WRC | +2:24.0 |
7 | ヘニング・ソルベルグ選手 | Henning Solberg | Ford Fiesta RS WRC | +2:40.0 |
8 | クレイグ・ブリーン選手 | Abu Dhabi Total World Rally Team | Citroën DS3 WRC | +2:44.6 |
9 | エルフィン・エバンス選手 | M‐Sport World Rally Team | Ford Fiesta R5 | +5:17.0 |
10 | テーム・スニネン選手 | Team Oreca | Skoda Fabia R5 | +5:31.6 |
感想
結局セバスチャン・オジエ選手が開幕から2連勝、そしてラリー・スウェーデン2連覇を達成しましたが、2位に入ったヘイデン・パッドン選手はこれからの更なる躍進を期待させてくれる活躍でした。最近のドライバーは大人しいか荒ぶってるかと極端なんですが、そのどちらからもちょっと飛び抜けているようで、どちらかというとオジエ選手に近いものを感じます。ヒュンダイのニューi20も良いバランスに仕上がっているようで、今年は一度くらい優勝あるかも。今回はメインチームのヒュンダイ・モータースポーツから出走していたので、マニュファクチャラーズタイトル争いにも貢献したことになります。
荒れたレースでちゃっかり7位入賞を果たしたのがヘニング・ソルベルグ選手。まだまだ若いもんには負けんぞ!ワハハハハ!みたいな笑い声が聞こえてきそうです。ラリーXさんのインタビューで、知っている日本を聞かれ「キッコーマン!」と答えるオチャメな人。お寿司好きらしいです。コ・ドライバーはスバル時代からのパートナー、イリカ・ミノールさん。女性です。
あと、6位に入ったオット・タナク選手も嬉しい結果が出せましたね。元々速さはあるけど、やらかし気味なところがあったので最後まで走り切れたのはとっても大きな実績になったのではないでしょうか。チーム自身のタイヤでもあるDMACK にとっても大きな宣伝効果がありそうですね。雪道ではミシュランと互角の性能って誇れるんですから。
残念だったのはまたしても0ポイントに終わってしまったラトバラ選手。ミーク選手はパワーステージで1ポイント取ったので0じゃない!今年はチャン ピオン争いを信じていたのに、すでに56ポイントも差をつけられてしまいました。でもまだ前を向いて頑張るって宣言しているので、応援し続けます。
おわりに
ラリーそのものの開催が危ぶまれたり、選手たちが身の危険を感じるほどに難しいコンディションとなっても開催の決定に選手が加わることができない問題など、今後の競技運営にも影響がありそうな事例が起こったイベントとなりました。
その日を楽しみにしている人たちのためにWRCスケジュールを予定どおり実施していくのはもちろん大切なことですが、そこに選手たちの意見が含まれていないのは確かにおかしいような気がします。この件はセバスチャン・オジエ選手、クリス・ミーク選手が主導して今後も議論を続けていくとのことです。
戦いは命がけではありますが、スポーツで命を失うのを誰も見たくはないですものね。
世界ラリー選手権(WRC)2016 第3戦ラリー・メキシコは3月3日(木)より開催です。
ラリースウェーデン レビュー
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