【映画感想】シネマの天使/あなたにも天使が見えるかも?(ネタバレなし)

2015年11月16日

シネマの天使

渋谷ヒューマントラストシネマで上映されていた「シネマの天使」を観てきました。たまたま予定が流れて時間が空いて、そんなときにこの映画のことをふと思い出して、なんとなくって気持ちだったんですが観終わってみると運命に導かれたんじゃないかというくらい大満足な内容でした。

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あらすじ

舞台は取り壊しが決まった老舗映画館

この映画の舞台となるのは広島県福山市に実際に存在していた「シネフク大黒座」です。2014年、老朽化や観客数の減少により開館から122年も続いたその歴史に幕を降ろすことになりました。物語は閉館が決まってしまった直後から始まります。

そんな映画館に新入社員として働き始めたばかりだった明日香(藤原令子さん)は、まだ閉館に実感を持てない様子。いつか自分の映画を大黒座で上映するのが夢だったアキラ(本郷奏多さん)は、未だに脚本1つ書けないままの自分に苛立ちます。

2人のボンヤリとした思いが、閉館となる瞬間に向かってゆっくりと動き始めます。

写真に写る謎の老人

劇場に取材に訪れたTVディレクターの新見(安井順平さん)が昔から残る写真を眺めていると不思議なことに気づきます。古い白黒の頃から比較的新しいものまで、どの写真にも一人の男性の姿が写っているのです。いつも同じ杖を持ち、同じハットをかぶったこの老人の正体を誰も知りませんでした。

同じ頃、明日香、アキラ、そして大黒座支配人の藤本(石田えりさん)の夢の中に共通の不思議な夢を見るようになります。謎の老人に謎の夢と立て続けに起こる不思議な出来事は、一体何を伝えようとしているのでしょうか。

映画館に隠されていた秘密とは?

ついに訪れた楽日。最後まで決して手を抜かず、精一杯の心を込めて対応し続ける劇場スタッフたち。訪れてくれる常連さんたちと、壁一面を埋め尽くす観客たちのメッセージ。

みんなが夢を見る場所を失くしてしまう重さを背負いながらも、その使命を全うしようとする支配人は最後まで気丈に振る舞います。

全てが終わったその時、明日香と新見が謎の老人の姿を見つけます。彼の後を追う劇場スタッフとテレビクルーのメンバーたち。最後にたどり着いた場所には、ずっと誰にも知られなかった秘密が隠されていたのでした。

【動画】「シネマの天使」劇場予告編

 

映画を観た感想

本物だからこその温かさ

撮影のセットして使われたのは、取り壊し寸前の”本物”のシネフク大黒座です。落ち着いた建物の佇まい、懐かしい匂いまで伝わってきそうな青いシート、映写室から覗いたスクリーンの景色、ちょっと薄暗い劇場裏の廊下。全て本物だからこそ感じられる映画館の雰囲気がフィルムには刻まれていました。

そして観客が残していった壁一杯のありがとうの言葉。このシーンを目にした瞬間、こんなにも愛されていた劇場なんだと胸が一杯になりました。

映画館は夢を与えてくれる場所

映画好きな人にとって、映画館とは人格を持った一人の人間みたいな存在です。だから馴染みの劇場が次々に消えていくのは、たくさんの時間を共有した大切な人を失ってしまうようで悲しい。そう思ってくれる人たちの気持ちを形にした映画ではあるけれど、決して湿っぽくないんです。

いろんな思いを映画に重ねて、戦う主人公の姿に勇気をもらったり恋をしたり、もしかしたら未来への夢をもらった人もいるかもしれません。いつだって映画は僕らに何かを与えてくれました。そのおかげで大切な告白ができたり、前に進めたりしたことが何度もあったでしょう。シネフク大黒座も古くから、多くの人に夢を与え続けれくれた特別な場所でした。

そんな映画館に対する”ありがとう”の気持ちがギュッと詰まっていました。

僕らは映画館から夢を託されたんだ

自分の代で劇場を終わらせていいのかと、石田えりさんが演じている大黒座支配人はずっと悩み続けていました。従業員からも昔からの友人からも続けることを懇願されます。しかし決定してしまったことですし、これ以上長く続ければかえって迷惑をかけてしまうという思いもあり、苦しみます。

生まれたものには必ず終わりが訪れます。だから娯楽の少ない時代に生まれた映画館も、年齢を重ねいつか無くなってしまうのは不思議ではないとも言えます。でもその役割は誰かが引き継がなくてはならないと思います。

“人々に夢を与え続ける”という映画館の夢を、僕たちは託されたのかもしれませんね。

ずっと映画が好きだった

映画批評家の方々からすると、ミステリーとしてもファンタジーとしてもストーリーが薄いとか、謎が曖昧なまま結末を迎えているとか、映画の1作品として観るとまだまだ足りない部分もあるのかもしれません。でもこの映画の場合、そんな薄味で良かったんじゃないんでしょうか。

きっと多くの人が、昔行った古い映画館のこと、一緒に行った大切な人たちのこと、大好きだった作品のこと、ずっと眠っていた思い出を振り返ながら観ていたことでしょう。

壁に書かれたメッセージに目を向ければ、今は消えてしまった街角の小さな映画館の記憶が蘇り、最後の映画上映のシーンでは、親に連れられて行った幼い頃や初めての映画館デートの記憶など、たくさんの過去の自分が館内のシートに座っているような気がしました。

あまり押し付けがましい物語でなかったからこそ、揺り起こされた過去の記憶と共鳴するように心に響いたのだと思います。

 

おわりに

ただの記録映画のように思い出や感傷に浸るのではなくて、ミステリアスなストーリーを軸に大黒座を愛する人たちの思いを精一杯散りばめて、涙あり笑いあり、そしてほんの少しの恋心ありの感動的な映画でした。

最近では3Dの映画上映も普及し、体感型劇場があちこちに作られるなど、映画を観る空間や時間を楽しむ代わりに身近なアトラクションのようなスタイルが確立し始めました。世の中が贅沢になって、映画とは日常とは違う刺激を求めるための存在に変わって行こうとしているように思えます。

確かに古き良き映画館の役目は一旦終わりを迎えるのかもしれません。でもいつかまた生きることが難しい時代が訪れたとき、人々に希望を与えるような温かい映画と映画館が再び戻ってきてくれるような気がします。

そして、天使がまたあの街に戻ってきてくれることを願います。

(追記)この記事を書いた日、映写技師として出演されていた阿藤快さんがお亡くなりになったというニュースがありました。最後の映画出演となったこの作品ではとてもお元気な姿を見せてくださいました。お悔やみ申し上げます。

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